アートと社会の接点をともに考える ACYフォーラムvol.7「アートとグリーンの視点からひらく 「公園をつくる」ってどんな仕事?」開催レポート

アートと社会の接点をともに考える ACYフォーラムvol.7「アートとグリーンの視点からひらく 「公園をつくる」ってどんな仕事?」開催レポート

アートと社会の接点をともに考えるACYフォーラムVol.7が、2026年8月31日に「横浜市瀬谷区民文化センターあじさいプラザ」で開催されました。「ACYフォーラム」は、アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)が開催する、横浜市内外の人や活動を紹介し、創造性を軸に横浜の未来を考える場です。社会の動きや関心に応じたさまざまなテーマを取り上げてきました。今回のテーマは「アートとグリーンの視点からひらく『公園をつくる』ってどんな仕事?」です。

登壇されたのは、ランドスケープデザイナーの熊谷玄さんと、樹木医の佐々木知幸さん。2人は公園のデザインや植物のエキスパートであり、2027年春から開催される「GREEN×EXPO 2027」会場跡地に「新しい公園」をつくるプロジェクトにも携わっています。「GREEN×EXPO 2027」開催まで200日と迫ったタイミングに、開催地である瀬谷で開催されたフォーラムには多くの人が訪れました。誰にとっても身近な「公園」をつくるという仕事をひもとき、生活の中で見過ごされがちな緑や植物に目を向け、意識を深めること、そうしたテーマに対する関心の高さが伺え、多くの方とともに考える機会となりました。

取材・文:齊藤睦志(クラフトワークス)
写真:大野隆介

公園は、“つくってくれる”ものではなく、みんなで“つくる”もの

会場の様子
会場には80人近くの来場者が訪れ、熱心に話に耳を傾けていました

フォーラムの前半は、これまでの公園とのかかわりや、公園をつくりながら考えてきたこと、これからの公園のあり方についてなどをテーマに、熊谷さんと佐々木さんがそれぞれの視点から語りました。

熊谷さんはまず自身の仕事である、「ランドスケープデザイン」=「風景をデザインする」とは何かを解説します。「庭園をつくるという仕事は欧米や日本でも昔からありましたが、専門分野として確立したのは19世紀末、ニューヨークのセントラルパークがその始まりです。ランドスケープデザインというのは、物と物の間をデザインする仕事です。“間”というのが重要で、それゆえにいろいろな専門領域、建築や造園、農業や土木など、あらゆる人たちがかかわってきます。そういった人たちもまた、ランドスケープデザイナーであると言えるでしょう」。

熊谷玄さん
ランドスケープデザイナーであり、これまでに公園をはじめ、公共施設やショッピングモ ールなど、数多くの風景のデザインを手掛けた熊谷玄さん

次に熊谷さんが手掛けた実例を挙げて、具体的なランドスケープデザインの仕事を紹介していきます。ひとつは横浜市のみなとみらいにある「グランモール公園」。全長1キロほどの細長い公園で、熊谷さんのスタジオと三菱地所設計が共同でリニューアルのデザインを担当しました。熊谷さんがこだわったのはディテールです。「例を挙げると、ベンチのレンガには、横浜から直接行くことのできる103の都市名が彫られています。また、美術館の前に置かれたひとつひとつ形状の異なるベンチは、波の形状をモチーフにしてつくられたもので、ただ座るだけでなく、寝転がったり小さい子どもが遊ぶこともできるものになっています」。また、目に見えない部分にも工夫が凝らしてあり、「地面の下に保水層を設け、大雨などの災害時に水の被害を抑え、また地下に蓄えた水が気化熱として蒸散していくようにするなど、そういう工夫を盛り込んだデザインになっています」。

もうひとつの実例は、横浜市旭区の左近山団地※のパブリックスペース「左近山みんなのにわ」。ここは熊谷さんが生まれ育った街の巨大な団地群で、人口が減り高齢化も進み、経済力が落ちて元気がなくなってしまったエリアを蘇らせるというプロジェクトでした。この時に熊谷さんたちが考えたのが「団地をまるごと公園化する」ということ。住民たちが本当にやりたいことのできる広場をつくるために、住民たちとともにのべ25回ものワークショップを行いました。こうしてみんなで公園の使い方を考えていった結果、現在では、住民の方たちが日常的に集う活気のある場となっているそうです。

※左近山団地…1967年より開発された賃貸住宅と分譲住宅約4800戸で構成されている大規模団地。

熊谷玄さんのレクチャーの様子
「なにげなくも尊い日常風景」は熊谷さんの中で大事なキーワードとなっています

最後に、これからの公園づくりを考えるヒントとして、世界にある最新の公園の事例を挙げました。ひとつはオランダにある「マキシマパーク」。ここの最大の特長は完成させず市民とともに育て続ける公園であること。地域の住人たちや企業による委員会があり、そこのメンバーがデザインやイベントなどを考えて、公園を育て続けています。

もうひとつはタイにある「チュラロンコン大学記念公園」。バンコクの中心部にある大学の土地に、建物を建てるのではなく公園がつくられており、地域住民が日常的に集い交流できる場として、緻密に設計されています。

これらの公園について熊谷さんは日本も見習うところが多いと語ります。「日本の公園はここでボール遊びをしてはいけないというような、禁止項目ばかり。でも、行政が公園を管理している以上仕方のないことで、これからの公園は市民が協働してつくるものにしていかないといけない。かかわっている人たちが自分ごととして公園のことを考え、運営していくことが大事です」と、語りました。

「ウチ」でも「ヨソ」でもない、曖昧な場所にある公園

佐々木知幸さん
公園に限らず、都市計画から個人の庭まで、樹木や植物にまつわることを何でも手掛けていますと語る、佐々木知幸さん

続いて、佐々木知幸さんが、自身の仕事と公園とのかかわりを、「ウチ」(内)と「ヨソ」(他所)の関係に置き換えて紐解いていきました。「樹木医と紹介していただきましたが、公園の設計や、都市計画のお手伝い、公園の看板をつくったり、個人の庭づくりやネイチャーガイドもやっています。公園や植物のよろず相談を請け負う“何でも屋さん”です」と自らの多彩な仕事を紹介しました。

佐々木さんは、千葉県市原市の農村で育ったのですが、家の周りは畑や田んぼで、近くに公園がないという環境でした。公園はなかったものの、自由に遊んだりできる原っぱや水辺はありました。佐々木さんは子どもの頃から、自分たちの住む地域の集落が「ウチ(内)」で、家から離れたところにあった公園は、集落が違うので「ヨソ(余所)」であるという感覚がずっとあったそうです。

大学に入学し造園に関係するさまざまな勉強をしたことで、学ぶ対象として公園と接するようになります。「大学の実習で立川の昭和記念公園を訪れ、こんな大きな公園があるのかと驚いたのですが、学ぶ対象でしかなかったので『ヨソ』という感覚のままでした。卒業後、公園の看板をつくる会社に勤め、縁もゆかりもない公園の仕事をするようになりました。仕事をするとだんだん他人事ではなくなり、完成した後も遊びに行ったりしていると、少しずつ『ヨソ』から『ウチ』になっていく。次に造園設計事務所に勤めると、知らない街の公園づくりにまるごと携わるようになる。そうやってかかわった公園が増えていくと、自分の中では愛着が湧いてきて、どんどん『ウチ』が増えていく。そんな感覚でした」

佐々木知幸さんのレクチャーの様子
公園と自分の関係が徐々に変化していく様子を語る佐々木さん

続いて、佐々木さんが携わった公園の例として、埼玉県にある「高麗川コミュニティパーク」での仕事を紹介していきました。環境や植栽などを調べる現地調査から始まり、川の近くにもともとあった田畑の野草を採取し、河川敷の梅の木などを保管し、公園の中に移植したりもしたそうです。公園は南北に細長い形をしていたためにその形状を活かし、交流の場になるパークセンターを南に、花が植えられているコミュニティガーデンを真ん中あたりにつくり、北の方は自然のままにして、生き物が集まってくるのを実感できるエリアにしました。佐々木さんには、地元の方たちが愛着のもてる公園にしたいという気持ちがあり、長い時間をかけて話し合いをしていったそうです。その結果、花壇や掲示板をつくり、マルシェや野菜の直売市が開催される交流の場になっています。「僕は下地をつくって応援しているだけなのですが、自分たちがプランニングした場所で、皆さんが楽しんでいるのがすごく嬉しいことなんです」。

公園のないところで育ち、公園の仕事をするようになった佐々木さんにとって、公園は「ウチ」でも「ヨソ」でもない、その真ん中くらいにある曖昧さと自由さが良いところであると語ったのが印象に残りました。

「GREEN×EXPO 2027」跡地に「新しい公園」をつくる

フォーラムの第2部は、「新しい公園」をテーマにした熊谷さんと佐々木さんによるクロストークと、来場者からの質疑応答を行いました。

最初に熊谷さんが、公園の植栽について、現地にあった植物を使うのか、違う場所の植物を使うのか、佐々木さんなりの決まりがあるのかを尋ねました。佐々木さんは強く意識することはないと答えつつ、「その場所のものをなるべく植えようというのはあります。同時に、別の植栽をブレンドして馴染ませてみたりすることもあります」と回答。逆に佐々木さんから、植栽がもともとない更地の場合はどのようにデザインをしていくのかと尋ねました。熊谷さんは土地の持つ歴史を重要視していると語ります。「例えばグランモールであれば、もとは海の埋め立て地です。公園で海的なものって何だろうと考えて波のかたちを模したデザインにしてみるとか、そういうコンセプトから考えます」。

クロストークの最後は、開催まで200日に迫った「GREEN×EXPO 2027」について。熊谷さんと佐々木さんは、「GREEN×EXPO 2027」の開催後、その跡地に「新しい公園」をつくるプロジェクトに参加しています。この件について熊谷さんは「まだ構想段階ではありますが、これからの公園はどうあるべきなのかを考えながら、大勢の仲間とともに計画を進めています。基本の骨子となるテーマは『環境』と『防災』。公園の工事をする際に、もともとそこにあった植物などの調査をきちんと行い環境を保全していくというのがひとつ。もうひとつは近年の災害の激甚化に伴い、公園を防災の拠点にできるように整備していくことです」と語りました。

「GREEN×EXPO 2027」には自然や環境についての最先端のテクノロジーや、それを実践している人たちが世界中から集まってきます。そういった経験や知識を受け継いでいくことが重要であると2人は語りました。

クロストークの様子
「GREEN×EXPO 2027」跡地に計画されている「新しい公園」。その基本コンセプトが語られました

ワークショップで大事なのは合意形成ではなく主体形成

最後に、来場者からの質問に2人が答えていきました。来場者の約4割にあたる30人ほどから質問が寄せられました。

質問のひとつは「公園をつくる際にはさまざまな意見が出てくると思いますが、異なる意見をどのように調整して合意形成をされているのでしょうか?」というもの。

それに対して熊谷さんは、「僕らが公園についてのワークショップを行う時、“合意形成”はしません。大事なのは、やっていいか悪いかという対立ではなく、何かをやりたい人がいて、それを応援できるかどうかという“主体形成”です。それが熟成していくと自然に合意も形成される。そんなやり方が公園をつくるときには重要と思っています」と、語り、また佐々木さんは、「合意に至らないこともあります。でも公園は広いのであっちとこっちで違うことをしてもいいんです。あと、その場で解決するのではなくて、いまできることをやりましょうという話をして、結論を出さない。じつは最初のうちに対立していても時間がたつと折り合いがついて解決することもよくありますので」と語りました。

もうひとつの質問は「人がつくる公園のような場所と自然のままの場所は、どれくらいの割合がいちばん活性化すると思いますか?」というもの。

佐々木さんは、「公園のような人の集まる場所を行政はどんどんつくっていくべきとは思いますが、それだけではなくて、横浜の三渓園のような、実業家の原三渓が自分の家の庭を、自然の風景は天から預かったものだからという理由で公開したように、そういった場所がたくさんあることが活性化につながるんじゃないでしょうか」と語り、熊谷さんは「自然の中に人間は含まれていますし、自然も人が全く管理しないことはあり得ない。そうするとこちらかあちらかではなく、そのグラデーションの中で人がどれくらい関与していくかが大事で、それは都市というものが抱えている大きな課題だと思っています」と語りました。

来場者の様子
来場者からは、公園の専門家の話が聞けて気づきがいくつもあったなどの感想が寄せられました

公園のつくり方の話を起点に、自然と人とのかかわりや、環境や防災、対話やコミュニケーションの重要性など、大きな広がりを感じさせる展開となりました。来場者からは、「公園の存在意義を感じることができた」「公園がさまざまな工夫や技術で成り立っていることを知れた」などの意見や感想が寄せられ、「公園をつくる」という仕事を知ることで、生活の中で緑とのかかわりを改めて考える機会となったトークイベントでした。

【登壇者プロフィール】

熊谷 玄(株式会社スタジオゲンクマガイ/ランドスケープデザイナー)

1973年横浜生まれ。現代美術作家崔在銀のアシスタント、earthscape inc.を経て、2009年3月STGK Inc. (株式会社スタジオゲンクマガイ) 設立。ランドスケープデザインを中心に、人の暮らす風景のデザインを行なっている。東京大学まちづくり大学院(2020年〜)東京理科大学(2025年〜)にて非常勤講師を務める。一般社団法人ランドスケープアーキテクト連盟常任理事。 主な仕事に「左近山みんなのにわ」、「グランモール公園」、「have a Yokohama 横浜駅西口仮囲いプロジェクト」、「JR横浜タワー/うみそらデッキ」など。「GREEN×EXPO 2027」開催跡地を活用して整備される新しい公園を整備するための計画検討業務について、STGK・TODAFUKEI設計共同企業体として担う。

佐々木 知幸(清右衛門/樹木医)

1980年埼玉県生まれ。ネイチャーガイド・造園家・樹木医。祖母の影響で幼いころから草花に親しみ、千葉大学園芸学部にて植物生態学を学ぶ。専門性を活かして、公園や庭づくりを通してネイチャーポジティブの実現を目指している。身近な植物を愛でる部活動「みちくさ部」を主宰するほか、ハルメク花さんぽ講師など各地で自然の楽しさを伝える活動を続けている。 主な著書に『散歩で出会うみちくさ入門 道ばたの草花がわかる!』(文一総合出版、2016年)、『みちくさ手帳いつもの道の「あの草なに?」がわかります!』(文一総合出版、2026年)、監修書に『なぜなぜ、どうして? しょくぶつのひみつ』(主婦の友社、2022年)ほか。

【イベント概要】

日程:2026年8月31日(月) 14:00-16:00
会場:横浜市瀬谷区民文化センターあじさいプラザ 4階 音楽多目的室
参加者数:76人
主催:アーツコミッション・ヨコハマ(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
令和8年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業