アーツコミッション・ヨコハマでは、2023年度の助成プログラムの募集を開始します。
2016年度から続けてきたアーティストのキャリア形成を支援するアーティスト・フェローシップ助成を発展させたプログラムとなります。
【募集要項】
詳しくは下記よりご確認ください。
ACYアーティスト・フェローシップ助成
【説明会】
本プログラムについての説明会を下記日程にて開催します。募集要項の説明や、特徴・仕組み、滞在拠点についてお話いたします
・開催日時
第1回:2023年4月6日(木)18:30~19:30
第2回:2023年4月13日(木)18:30~19:30
・開催方法
Zoomミーティングによるオンライン開催を予定しています。
・申込方法
申込フォーム( https://forms.gle/2TEY5zvfshfzBXS76 )よりお申込みください
【ご相談】
助成申請のご相談は下記までお気軽にお問合せ下さい。
面談、オンライン(zoom使用)、メール、電話などにて承っております。
面談やオンラインでの相談には日時予約が必要です。お電話は営業時間内におかけください。
ご相談申込フォーム( http://acy.yafjp.org/contact )
電話:045-221-0212(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団 営業時間/平日9:00~17:00)
横浜市緑区中山の住宅街に、コワーキングオフィスやカフェ、ギャラリー、教室、多世代交流サロンなどが点在する小さなエリアがある。名付けて「753village(ななごーさんヴィレッジ)」。草の根的に広がったというこのコミュニティについて、プロジェクトメンバーの大谷浩之介さんと関口春江さんご夫妻、齋藤好貴さんに伺った。
薪風呂もある、まちのフロント「Co-coya」
お話を伺った場所は、753villageの玄関口として2022年2月にリニューアルオープンした「Co-coya」。住宅街の中でも人通りのある道に面した、築60年の民家を改修したコミュニティスペースだ。
建築家の関口春江さんが設計・運営を手がけるCo-coyaは、1階が陶芸家や染織家、画家、パティシエが入居するシェアアトリエ、2階がコワーキングオフィスとなっている。この地域の多くの家が備えているという井戸を復旧し、薪ストーブと薪風呂も設置。災害時には近所の人もトイレやお湯が使える、災害拠点としての機能も持たせた。
土壁や漆喰壁、三和土(たたき)土間といった日本の伝統技術を採用し、開放的でモダンな印象ながら周囲に溶け込んでいる。工事には地域からの参加者も募集し、左官職人から基礎技術を教わりながら作業した。
関口:「震災時のがれき処理について知った時、今建てている建物ってゴミになるんだなということが一番印象的でした。それから『ゴミにならない建築』というものを意識しだして、もともと日本の伝統建築で使われている自然素材に興味を持ったんです」
改修の費用は持ち出しに加えてクラウドファンディングを活用したほか、大家である齋藤好貴さんも巻き込んで横浜市の「ヨコハマ市民まち普請事業」に応募し調達した。
関口:「シェアアトリエとオフィスまでは先に改修して運営していて、ここを地域に開く場所にしようと決めたタイミングで、まち普請コンテストを知りました。自費で進めようと思っていましたが、私たちにぴったりの制度だと思い、齋藤さんに声をかけました。齋藤さんはこれまでの私たちの活動も中心になって一緒にやっていたので、齋藤さんにも表に出ていただくことで、こういう地主さんが増えたらいいなと思ったんです」
大谷:「ほかの施設が少し奥まったところに点在しているので、それぞれの場所が何をやっているか分かりにくいよねといった話を地域の方からいただいていました。それもふまえて、この家が空いた時に、各施設を面でつなぐようなイメージで、インフォメーションセンターのようにしようと考えたんです。そこに災害拠点の機能も持たせることで、いざという時に『あそこがあってよかった』と思ってもらえるといいなと。ふらっと来た方に『菌カフェに行こうと思ってるんです』と聞かれることもよくありますね」
原点は地主さんの思い
このエリアで家を「ひらく」試みは、高台の上にある「なごみ邸」から始まった。オーナーの齋藤さんは、「28年ほど前に空き家になった時、更地にして収益物件を建てるのもいいけれど、これから空き家がどんどん増えていってまちの元気がなくなってくるだろうし、せっかくなので地域に根ざした魅力的なモノの発信基地のような場所にできたらいいなと単純に思ったんです」と語る。
齋藤:「実験的ではあったのでドキドキしましたが、俳句やお茶の会、演奏会などに利用してもらっていろんな人が集まることによって、情報がいろいろ入ってくるようになり、そこでまた新しい発想が生まれることもあります」
当初は区外などからそうした催しに訪れる人が多かったため、地元の人にどんな施設か知ってもらおうと始めたのが、桜の時期の観桜会だ。10日〜長くて2週間、朝9時くらいから夜8時頃まで施設を公開し、夜にはライトアップしている。
齋藤:「個人宅に予約制とはいえ不特定多数の方が出入りするので、やっぱり心配するわけですよね。周囲の人に来てもらって、こんなところですよとお知らせすることで、口コミで不安を和らげることができればと思いました。時間はかかりますが、施設として、地域に対してのあり方としてそういう手法をとり、だんだん浸透してきました。
おかげさまで25年地道にやってきて、予想通り空き家が増えましたが、関口さんや大谷さんのように新しく地域に関わる方も来てくれるようになりました」
カフェからマルシェ、地域活性へ
関口さんと大谷さんがこのまちに関わるようになったのは10年前。現在は「菌カフェ753」として営業するカフェのスタートがきっかけだった。
菌カフェ753を運営するシェフの辻一毅さんは、都内のレストラン「Tsuji-que」を営業しながら、中山の近く、十日市場の自然農法の菜園に援農に来ていた。通うなら住んでみようと、引っ越した中山の家の大家が齋藤さんだった。裏手にカフェになる物件があると齋藤さんから聞いた辻さんに誘われ、援農仲間だった関口さんや大谷さんも物件を見に来た。
関口:「佇まいに一目惚れして、ここにどうにか関われないかなと思いました。そこで、自然農法や私たちがライフワークとしてやっていた醤油づくりなど、いろんな活動を発信する拠点にしたいというカフェのコンセプトを書いて齋藤さんに提案したんです。
空き家問題がちょうどよく取り沙汰されている時で、どんどん家が余るのに新しい家を建てるということに疑問を持っていました。ハコを作るよりはそれを生かすこと、ソフトのほうが面白い、価値があるんじゃないかなと考えていた時期でした」
辻さんと関口さん、大谷さんを含むチームで始めたカフェ。そこから月1回のマルシェが生まれ、少しずつ規模を広げていった。
大谷:「カフェの中で始めた小さなマルシェでしたが、そこから地域を盛り上げるものにしよう、地域を使った活動にしようというような方向が出てきたんです」
柔軟に変化していくコミュニティの中で暮らす
その後、マルシェの出店者がもっと定期的に出店できたり、気軽に小商いにチャレンジできたりする場所を作ろうと2016年にできたのが「季楽荘」。庭付きの立派な平屋で週1の「まがりカフェ」が営業するほか、セラピーや教室用に抑えた料金設定で部屋を貸し出している。
季楽荘の敷地内のガレージを改装し、「Gallery N.」もできた。白い壁のスペースで、個展やグループ展を開催することができる。なごみ邸・楽し舎と合わせた4施設は、齋藤さんがご夫妻で手分けして運営している。
こうしてゆるやかにつながる拠点のコミュニティができあがっていき、齋藤さんと関口さん、大谷さん、辻さんらは、すっかりまちのことを共に考える協働関係に。
齋藤:「私自身で全部なんてできないんですよ。一つの組織や一人がプロデュースしても、結局その色からあまり出られないと思うんです。発想に限りがあるので。いろんな人との出会いをうまく組み合わせることによって、魅力的な景色になって、まちの活性化につながる、それが一番大事だと思っています。
この方たちだったら、地域の中で自分たちのこれからやりたいことをどんどん自分たちのスタンスで広げていってくれるだろうとすごく感じられたので、私は単純に場所を貸すことで、地域がより充実していく、それでまた人が引き寄せられる、そういう相乗効果が出てきていますね」
「753village」という見せ方を考え始めたきっかけは、エリア内の建売住宅3棟を齋藤さんが取得したことだった。相続などの関係で一度手放さざるを得なかった土地だが、住宅が建てられたあと、やはりこのエリアへの思いが強い齋藤さんが、なごみ邸や菌カフェ753のある通りに面する側だけ買い戻したのだそうだ。
大谷:「賃貸物件として貸し出す上で、『コミュニティの中で暮らすこと』という打ち出し方を考えているうちに、『ヴィレッジ』というコンセプトが立ち上がりました。最初からプロジェクトのがっちりしたイメージがあったわけではなくて、関わる人たちの要望などを聞きながら作っていき、活用の仕方も流動的に変化してきました。街の変化に合わせて今後も変化していけばいいかなと思っています」
建売住宅のうち1棟は、多世代交流カフェ「レモンの庭」として2018年から一般社団法人フラットガーデンが運用することに。ニットカフェや健康マージャン、「推し活DAY」などの会を設け、乳幼児連れの子育て世代や小中学生、シニアまでさまざまな人の居場所となっている。
入居者を募集した住居は大変人気となり、待ちが出るほどだそう。
「お客さんで来たり、スタッフでちょっと手伝ったり、このまちとのいろんな関わりを自分のライフスタイルの中に自然に取り込んでくださった方が、今度は住みたいねという意識になって来てくださっているんです」と齋藤さん。わかりやすいキャッチコピーで固定のイメージを作るのではなく、地道に場所・活動をひらいていくことで理解者や協力者を増やしていくなごみ邸のスタイルが753villageという形につながり、新たなステージを迎えている。
文:齊藤真菜
撮影:大野隆介
【INFORMATION】
753village
https://nakayama753.com/
Cocoya
横浜市緑区中山町86
JR横浜線・中山駅 南口より徒歩7分
linktr.ee/cocoya_nakayama
なごみ邸
横浜市緑区中山5-1-1
https://www.nagomitei.jp/home/
菌カフェ753
横浜市緑区中山5-3-10
045-935-7531
多世代交流カフェ「レモンの庭」
横浜市緑区中山5-4-7
https://www.flatgarden-yokohama.com
杜のぴか市
https://www.instagram.com/mori_no_picaichi/
【プロフィール(五十音順)】
大谷 浩之介
2013年に「753プロジェクト」を立ち上げ、2014年より横浜市緑区中山在住。東京の社会教育の現場で地域住民のコミュニティ形成支援に携わったのち、横浜で多様な主体による共創事業に携わる。自宅をシェアハウスとしながら、地域の空き家活用を進めてきた。楽しんで暮らしをつくることに邁進中。2009年より取り組む手づくり醤油の活動では、搾り師を担う。
齋藤 好貴
横浜市中山の建久2年(1191年)から続く旧家に生まれる。1990年実家が経営している株式会社八廣に入社、主に不動産管理の業務に携わる。1998年空き家を活用し、レンタルスペース「なごみ邸」を開設。多様な企画催しや独自の地域コミュニティの核心地となるべく業務を続けている。
新たな空き家を活用し趣旨考察を共感する仲間たちを中心に魅力的なコミュニティのある街創りに日々勤しむ。
関口 春江
本業は住宅や庭の設計デザイン。
お醤油づくりと緑区中山への移住をきっかけに「自分たちの暮らしは自分たちでつくる」をコンセプトに、地主さんと共にコミュニティを醸造中。活動エリア内にある空き家のポジティブな転換が次々はじまり、2022年に各拠点をつなぐインフォメーションとして環境共生型リノベーションで空き家を再生。豊かな暮らしとは?を日々模索し続けている。
#郊外
#環境・資源
#農業
#生活・地域
#食文化
#まちづくり
#デザイン
#建築
#コト
〇小暮香帆
akakilike 新作ダンス公演『15:00(静かに)電子レンジを壊す』出演
日程:2023年3月24日(金) 20:00
25日(土) 13:00/18:00
26日(日) 11:00/16:00
出演:Aokid 倉田翠 小暮香帆 仲谷萌
会場:「堀川新文化ビルヂング」内ギャラリースペース<NEUTRAL><Gallery PARC>
https://horikawa-shinbunkabldg.jp/rental-space/
2021年3月より休館し、大規模な改修工事を行っている横浜美術館では、工事用の仮囲いを使ったプロジェクトが進行しています。正面玄関側には「New Artist Picks: Wall Project」</a>の第2弾としてアーティスト・浦川大志(うらかわ・たいし)さんによる展示「掲示:智能手机(スマートフォン)ヨリ横浜仮囲之図」が開催。全長52メートルにわたり仮囲いに掲出された5点のプリント作品には、上空から見た横浜美術館や中華街など横浜に関するモチーフのほか、魚やザリガニ、海の風景、仮囲いなどが描かれています。作者の浦川大志さんと、本展を担当した横浜美術館学芸員の南島興(みなみしま・こう)さんに、今回のプロジェクトの経緯や本作品の意図のほか、アーティストとしての生き方や今後のことについてお聞きしました。後半では、横浜美術館がどのように変わっていくか、紹介していきます。
福岡での高校生時代
――最初に、今回のプロジェクトを担当した南島さんが、浦川さんに作品制作を依頼した経緯を教えてください。
南島:本プロジェクトは、2007年より横浜美術館で行ってきた若手アーティストを紹介するシリーズ「New Artist Picks」の、休館中の特別編になります。掲示場所は美術館内の展示室ではなく、工事用の仮囲いです。その前にはグランモール公園という水と緑の広場があり、公園を挟んだ向かい側にはみなとみらい駅直結のショッピングモール、MARK ISみなとみらいがあります。ショッピングに来る人や公園を利用する人たちにも興味をもってもらえるような作品で、かつ仮囲いを覆うような大きなイメージを作れる人を考えました。そのときに浮かんだのが浦川さんでした。
浦川:自分が住んでいる福岡では展示の機会もよくありますが、関東で声をかけていただくことは比較的少ないのでうれしかったです。横浜での展示は2015年の「黄金町バザール2015」に参加して以来でした。そのとき「もっとこうすればよかった」「次はこうしよう」など考えていたこともあったので、横浜でまた機会をいただけてよかったです。
南島:「黄金町バザール」に参加したのはどのような経緯だったのですか。
浦川:高校を卒業時に福岡のギャラリーで展示をした際に「黄金町バザール」のディレクター、山野真悟(やまの・しんご)さんと出会ったことがきっかけです。
南島:浦川さんがどんな高校生だったのか、美術との出会いも気になります。
浦川:小さいころからよく美術館に行くような環境で育ったわけでもなく、高校は普通科に通っていました。たまたま福岡市美術館に行ったときに、九州派の前衛作家・菊畑茂久馬(きくはた・もくま/1935-2020)さんの回顧展(2011年)で、菊畑さんやその時代のほかの作品を見て、戦後美術に興味を持ちました。そこから美術部に入り作品制作を始めたのです。ただ普通科なので自分で動くしかなく、大学卒業時、よく通っていたカフェ兼ギャラリーに自主企画を持ち込んで「一人卒業制作展」を開催しました。これが僕の初個展です。その展覧会で山野さんのほかにも、たまたま福岡にいらっしゃっていた横浜美術館の学芸員の方々にもお会いできました。
南島:そのときから横浜とつながりがあるんですね。
浦川:僕の人生は偶然に支えられているところはあります。そのギャラリーには、福岡市美術館やアジア美術館の学芸員さんが来たり、キャリアのある作家さんが来たりして、作品を見てもらいました。美術系の学校を出ていなくても挑戦できたのは、福岡のアートシーンという恵まれた環境だったからと思います。
「軽薄さ」を引き受けていく
――今回の作品には横浜に関するモチーフも登場します。どのように作品ができていったのでしょうか。
南島:横浜に関係することで何かできたらというご相談はして、いろいろとブレストしましたよね。向かい側のショッピングモールにはショーウィンドウがあり華やかですので、そこを歩く人は自然とそちらに目が向くと思います。でも「こちらにも面白い壁がありますよ」と見てもらうにはどうしたらいいのかを考えました。
浦川:ブレストの段階では、横浜の開港とそこから発展したまちの歴史などをリサーチし、人やモノ、情報が行き来する意味での「港」をキーワードに、自分が住む福岡との共通性も入れていく、というアイデアもありました。
南島:横浜と福岡は、文化を受け入れていく土地柄に共通点がありますよね。
浦川:ただ、横浜という土地で作品を発表することの誠実さが気になりました。今回展示する場所性を考えたとき、歴史をリサーチしてその一端をきりとり、作品化することが本当に誠実かなと考えたんです。ショッピングや観光で訪れる人も多いこの場所は、「欲望」に対峙できる場所です。一見、欲望に準ずることは「軽薄」な態度かもしれない。でもそれを否定せず、引き受けていくことも重要ではないかと思いました。そして横浜の「観光地らしさ」を追求してみようと思ったのです。
南島:観光客が横浜に求めているのは、その土地の歴史的な事実よりも「軽薄」な横浜のイメージかもしれない。でも、それこそが文化交流を達成させるためには重要で、観光客と同じ視点にたって作品をつくるほうが、外から来た人としては誠実なあり方なのではないか、と考えられたのですよね。
浦川:その通りです。要約をありがとうございます(笑)。
南島:でも「軽薄」とは、通常だとネガティブなイメージのある言葉ですよね。
浦川:「軽薄」を肯定する必要性はあると思っていて。やりたくないなと思ったのは、シリアスなものを「シリアスですよ」と提示すること。シリアスさをそのまま提示しても、その地域には還元されないのではないかと。そうではない方法で、個人として何ができるかと考えたとき、観光客的な態度をポジティブにとらえて肯定してみたいと思ったのです。
南島:それは、欲望を肯定するということでもありますよね。シリアスなものをシリアスに提供することは、欲望を認めず真面目に歴史にふれる態度。それだと現代美術に関心のある人は見てくれるかもしれませんが、多くの人には届かないかもしれない。そうなれば本末転倒です。中華街というモチーフをいれたのも観光を意識されていますよね。
浦川:中華街では、観光資本として過剰な演出が見受けられます。それこそがリアリティがあると思いました。過剰な演出や軽薄さのようなものを仮囲いで再現したのが、本作で意識したことでした。
南島:横浜美術館は、1989年に開催された「横浜博覧会」のメインパビリオンとして開館しました。当時の資料を読むと、横浜博覧会では、まさに日本を代表するテーマパークである東京ディズニーランドとの差別化を図ることがひとつのポイントだったことが分かります*。ある場所に閉じているのではなく、横浜には都市に開かれたテーマパーク、つまり博覧会をつくろうと。それがいまのみなとみらいにつながっていきます。そう考えると、今回の浦川さんのコンセプトは、実はみなとみらいの成り立ちにも沿うものに思えてきました。
*『横浜博覧会 そのデザインとアーバニティ』横浜博覧会協会刊行委員会編、新建築社、1989年、17-18頁
二次元バーコードを描くこと
――浦川さんの絵は、モチーフの内外に見られる複層的に重なったグラデーションの色面も特徴的です。こうしたグラデーションはほかの作品でも取り入れられていますよね。
浦川:もとの絵は3分の1スケールでつくっているのですが、パネルに布を貼りアクリル絵具で描いています。それで、グラデーションの線は太い刷毛で描いています。なぜグラデーションかというと、あいまいさを大切にしたいからです。昨今、特にSNSの世界では、友か敵かのような二項対立的な分断が起こっています。もっとあいまいなものを絵画に描いていきたいと考えたとき、色の区分がわかりづらいグラデーションをはじめました。もちろん、デジタル的なデバイスで使われる質感も表現しています。
――今回二次元バーコードも印象的なモチーフの一つですよね。スマホをかざすときちんと読み取れるようになっています。これまでもモチーフにされていますか。
浦川:二次元バーコードを使うのは初めてで、これも欲望を喚起させるモチーフとして描いたのが一つの理由です。もう一つは、図像でもあると同時に文字情報でもあるという二次元バーコードの性質がユニークだと感じたからです。
南島: 二次元バーコードにアクセスすると、つぶやきのようなテキストがカメラ上に表示されます。リンク先にアクセスするような情報ではないのですよね。何が表示されたかを記録しようとすると、その画面をスクショするしかない……。
浦川:そのテキスト内容には特に意味はなくて、「抽象画みたいなものって正直わからないよね」「今、離れてカメラを向けている?」といった言葉が出てきます。
南島:遠くから見られているような、絵が語りかけているような言葉ですよね。私たちが「見たい」という欲望で近づくと、逆に「見られている」と我に返るような。こうした入れ子の構造は、横浜美術館の仮囲いに、横浜美術館もまた描き込まれている構造にも共通しています。
浦川:絵の中に絵がある、という構造の絵をここ1年くらいよく描いています。これは絵画自身の自意識、見る人の自意識に注目しています。
南島:二次元バーコードを読みとったときに中華街の観光情報や歴史的な解説ではなく、意味のない言葉だった。「私、何を期待していたんだろう」と思ったりもするかもしれません。それは欲望を肯定することにつながりますよね。
浦川:我々は「軽薄」であることに意識高くいよう、というような二重三重にひねくれた考え方かもしれませんね。
福岡での高校生時代、正社員という選択
――最後に、浦川さんのアーティストとしての生き方についてお伺いしたいと思います。週に5日、正社員として働きながら作品制作を続けていると伺いました。両立は大変ではないかと思うのですが。
南島:以前、浦川さんは半分冗談で「僕は日曜画家なんです」とおっしゃっていましたよね。アーティストとしてのキャリアプランを考えるうえで、経済的なこと、現実的な視点もお持ちだなと思っていました。なぜその選択をされたのでしょうか。
浦川:高校2年で進路を決めるころ、「芸大とか受けてみたい」という話を親にしたんです。すると「美術をやりたかったら、ここから通える範囲でやりなさい」といわれて、市内にある総合大学に進みました。それで大学を卒業するときに「東京に出てバイトしながら美術をやりたい」というと「わかった」と。「ただ、生活費や税金など生きていくのにどのくらいのお金がかかるのか、バイトと正社員を比べるとどのくらい違うのか。時間とお金を計算して、そこから判断しなさい」といわれ、企画書をつくりました。それで、やっぱり正社員のほうがいいなと(笑)。
南島:でも、結果としては働きながら描くというスタイルが合っていたのですよね。
浦川:当時からネガティブなものとは考えてはいませんでした。僕が影響を受けた九州派の作家は、別の仕事をしながらアーティストをしている人が多くて、生活者の視点も大事にしていたんです。アーティストは現代社会における諸問題について真っ先に気づいて発表する人たちだと仮定したとき、正社員として社会に揉まれながら作品をつくっていくほうが、諸問題に対する解像度があがっていくのではないかとも思いました。それでスーツを着て出勤するような仕事を選んだのです。いまはこのスタイルを定年まで続けていきたいと思っています。
――お二人は、今後も美術に関わっていくなかで、こうありたいという目標、こうなるといいなという希望などはありますか。
浦川:僕は、重篤なほどに美術が大好きなのです。アイドルの箱推しみたいな感じで、美術がすべて好きで。近現代美術や古典美術に限らず、団体系の公募展、カルチャーセンターの水彩画教室の展覧会なども見に行きます。オークションのカタログを見てマーケットの動向も追いかけています。だから、美術のことはすべて愛情を持って見ているというのが本音です。ただし、何か一つのことに依存していく状態だけは避けたいので、拠点やコミュニティを複数持つ状況を選択しています。たとえば今後、美術業界が変わっていくべきことはきっとたくさんあると思いますが、そこに自分はあまりコミットしていなくて。将来の目標は、田舎でカフェギャラリーをやりたいなと。そんな夢を重ねています。南島さんはどうですか。
南島:美術は、自分にとってはひとつの窓のようなものです。美術を通じて、私たちが生きている世界が、いつもとは違う別の姿に見えたり、いつもとは異なる仕方で生活について考えられるようになったりしますよね。そういう体験が、人が美術に触れたときに楽しいと感じたり、解放感を得たりする根っこにはあると思います。だから、そのための魅力的なひとつの窓として、美術があるようにいろいろな活動をしてきたいです。
PROFIL
浦川大志[うらかわ・たいし](写真右)
1994年福岡県生まれ。2017年九州産業大学芸術学部卒業。ゲームやGoogleマップの空間描写の方法を参照した空間構成、Photoshopやペイントソフトなどのデジタル的な筆致が特徴。近年参加した展覧会に「@sanemasa5x #風景・それと・その他のಠ_ಠ」(MIZUMA ART GALLERY、東京、2022)、「浦川大志 × 名もなき実昌展~異景への窓~」(大川市清力美術館、福岡、2021)ほか。2018年に「VOCA展2018」大原美術館賞受賞。「アートフェア東京2023」(2023年3月10日〜12日)に出品予定。
南島興[みなみしま・こう](写真左)
1994年生まれ。横浜美術館学芸員。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了(西洋美術史)。2021年より現職。全国の常設展・コレクション展をレビューするプロジェクト「これぽーと」主催。旅行誌を擬態する批評誌『LOCUST』編集部。『文春オンライン』「美術手帖」『アートコレクターズ』、そのほかに寄稿。
IMFORMATION
New Artist Picks: Wall Project
浦川大志|掲示:智能手机ヨリ横浜仮囲之図
日時:2022年11月14日(月)〜2023年5月31日(水)予定
場所:横浜美術館前 仮囲い
料金:無料
主催:横浜美術館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
新しい横浜美術館に向けて
2024年春に再オープンを予定している横浜美術館。どんな美術館に生まれ変わるのでしょうか。今回の仮囲いプロジェクトや今後の計画について、横浜美術館で広報を担当する藤井聡子さんに伺いました。
仮囲いが彩られているのは、横浜みなとみらい21地区で定められた「横浜市魅力ある都市景観の創造に関する条例」「街づくり協議」が関係しています。「New Artist Picks : Wall Project」をはじめ、横浜美術館では改修工事が2021年にスタートして以来、アートワークやデザインを施すプロジェクトを続けてきました。浦川大志さんの作品を展示している「New Artist Picks」は正面公園側ですが、仮囲いの別の面では別のプロジェクト「みんなと、いろいろ、みなといろ」(2022年12月〜)と題された、100人から集めたメッセージを掲示。集められたメッセージのなかには「横浜美術館のない生活は、想像以上に淋しいものでした。リニューアルを楽しみにしています!」「ここはいつもの散歩道、沢山の思い出のある美術館がまたオープンするのを楽しみにしてます!」など美術館の再スタートを待ちわびる声が見られます。2024年の春、美術館はどのように生まれ変わるのでしょうか。
横浜みなとみらい21地区の再開発がはじまったばかりの1989年、横浜美術館は市内初の本格的な美術館として開館しました。日本を代表する建築家・丹下健三が最晩年に手がけた建築でも知られ、石造りのシンメトリーな外観、ファサードの長い柱廊、広々とした吹き抜けのエントランスなどが特徴的です。
「その建物の特徴を活かしながら、展示やワークショップにいらっしゃる方だけでなく、日常的に立ち寄ってみようと思っていただける場所を増やす予定です」と藤井さんは話します。これまであまり通行の多くなかった美術館の西側には、2023年7月にホテルや商業施設が入る「横浜コネクトスクエア」がオープン予定。それに合わせて西側から公園側への通り抜けも増え、両サイドが開かれることで風通しのよい美術館になります。
「実は、当初は美術館内を24時間通行できるようにしたいという計画があったようで、その構想にもあてはまるのです」と藤井さんは言います。竣工から35年の時を経て、先人の思いやまちの文化を引き継ぎながら生まれ変わる美術館。リニューアルオープンまでの休館中にもワークショップやトークイベントも開催しています。
構成・文:佐藤恵美
撮影:大野隆介(特記のないもの)
IMFORMATION
「みんなと、いろいろ、みなといろ」
日時:~2023年5月31日(水)予定
場所:横浜美術館仮囲い
料金:無料
主催:横浜美術館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
企画・デザイン:ondesign + STGK
#都心
#まちづくり
#デザイン
#美術
#横浜美術館
#ひと
2023年3月末日をもって、WEBマガジン「創造都市横浜」の記事の更新を停止します。
横浜で起こる/生まれる様々なクリエイティブな人、活動、出来事などの紹介を通じて、“創造都市横浜”をプロモーションする目的で、2013年から10年間、アーツコミッション・ヨコハマ(以下ACY)事業の一環として運営してまいりました。
ご愛読くださった皆さま、取材にご協力くださった皆さまに心より感謝申しあげます。
公開した過去の記事の一部は、当サイトのコラム記事としてアーカイブしていく予定です。「創造都市横浜」名義のSNS(Facebook、Twitter)につきましては、ACY名義に変更し、これまで通り、中間支援の役割として広報協力を行ってまいります。
ACYでは、今後も横浜のアート・クリエイティブなどの情報をWEBサイトやSNSで発信してまいりますので、変わらぬご愛顧のほどをよろしくお願い申しあげます。
アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)が次世代のアーティストのキャリアアップを支援する「U39アーティスト・フェローシップ助成」。その2022年度フェローシップ・アーティストの1人が振付家・ダンサーの小暮香帆だ。DaBY(Dance Base Yokohama)レジデンス・アーティストでもある小暮は、近年おもに横浜を拠点に創作活動や作品発表を行ってきた。この2月にはBankART Stationで、ソロ活動10周年を記念する新作「『D ea r 』改訂版」を上演したばかりだ。
6歳よりモダンバレエを始め、現代舞踊教育に定評のある日本女子体育大学に進んだ小暮が、ダンスの基礎訓練を重ね、揺るぎないテクニックを培ってきたことは、彼女のダンスを見れば一目瞭然だ。一方で、ここまでの道程にさまざまな異質な才能とのめぐり合いがあったことが、彼女のしなやかな弾力性に富んだ表現に繋がっていることも容易に想像できる。
「モダンバレエの世界ではどれくらい高く足が上がるかというようなテクニックが評価されますが、大学に入ってからはダンスの身体性というものに興味を持つようになりました。どちらかというとダンサー気質というか、自分の作品を創作するより、いろいろな人の作品に楽しく出演してきました。多様な身体性やバックグラウンドを持つダンサーたちと踊れることが嬉しくて」
そんな大学時代に、舞踏家でオイリュトミストである笠井叡が主宰する天使館で、『虚舟』のクリエイションに参加したことは大きな転機となった。
「衝撃でした。半世紀くらい歳の違う私と真っ直ぐに目を合わせながら、笠井先生が『ダンスってわかんないですよね?!』と話しかけてくださった。そうか、わからなくていいんだ、わかろうとしなくていいんだと」
また同時に、次々と舞い込むようになった出演依頼を積極的に受け、ギャラリーやライヴハウスといった劇場以外のハコで踊る機会を重ねてきた。
なかでも当時、六本木のスーパーデラックス(以下SDX)では週末ともなれば、コンテンポラリーダンス、現代音楽、映像、演劇といった異ジャンルのアーティスト同士のライヴパフォーマンスが展開されていた。SDXディレクターであるマイク・クベック(a.k.a.ビア・マイク)の企画で、ジャズミュージシャンの坂田明や映像作家の中山晃子など、多彩な領域のアーティストとのコラボレーションを体験したことは、小暮にとって貴重な「武者修行」となった。
もちろん劇場の関係者やダンスの専門家に見てもらうことは大事ですが、それだけでは健康的じゃないなと思い始めたんです。ライヴイベントでダンスを踊ることが積み重なるうちに、ただ振付を美しく上手く踊ることよりも、街の景色や人の動きを反映したリアリティと強度のある身体を追求したい、と思うようになりました。同時期に、笠井叡さんや山崎広太さん、鈴木ユキオさんといった舞踏をルーツに持つ方たちの作品に関わったことで、〈経過の身体〉というものを知ったことも大きいですね」
その後の活躍は目を見張るものだ。劇場、ライブ、メディアなど多彩なプロジェクトに参加しながら、近年では映画や映像作品への振付・出演、さらに今年度秋はパリコレのランウェイに登場するなど、ますます活動の幅を広げている。
ここ数年の小暮の活動を振り返るだけでも、数多くの印象的なシーンがあった。
たとえば、同じ日本女子体育大学出身の映像作家・ダンサーの吉開菜央の監督作『ほったまるびより』(2014年)と『みずのきれいな湖に』(2018年)に出演したことは鮮烈なイメージを残した。
前者では、4人の女性ダンサーの一員として、古民家に溜まったかつての住人の気配が染み出す様を身体表現により表出させた。後者では、静かな湖面で水中に身体を沈めながらソロダンスを踊った。
「お風呂からちょっとした滝壺まで、これまであらゆる水の現場を経験した」(小暮)というが、いまから思えば、水というものと小暮の表現に共通する象徴性があったことに気づかされる。
Dance New Air 2019のプログラム、ハラサオリ振付による『no room』(2019年、旧ノグチルーム)に出演したときは、ハラと渡りあうに相応しい都市的なセンスが際立った。イサムノグチが手がけた瀟洒で温もりのあるモダンデザインのインテリアを舞台に、端正な家具や涼やかな観葉植物のような佇まいに惹きつけられた。
2020年、六本木の雑居ビルに期間限定で展開したオルタナティヴスペース、ANB Tokyoのオープニングで、小暮はオンラインライブ&パフォーマンスに参加している。
全館6フロアを激しく行き来しながら、各階で演奏する角銅真実、内橋和久ら手練れのミュージシャンたちとの120分にわたるセッションを1人でやり抜いた。コロナ禍のステイホーム中、Macのモニター越しに、暗視カメラのような画質のその映像をどこか窃視的な距離感で観る体験は非常にスリリングだった。
「劇場でもなく、ギャラリーやライヴハウスでもない場での過ごし方を考えることで、ダンス公演とは違う表現や距離感を発見しました。ダンスをあまり知らない人にも観てもらえる場はすごく大事で、責任を感じます。もしかしたら、その人は今後一生ダンスを観ないかもしれない。できればそれは避けたいし、ダンスいいじゃん、って思ってもらいたいですよね」
こういった場での小暮の「過ごし方」が観る人の意表を突くことは、その後、『Chim↑Pom展:ハッピースプリング』(2022年、森美術館)の展示空間に設けられた「道」=ストリートで行われた“いきなり!誰でもダンスバトル!!”(企画:Aokid)で、キッズダンサーと対戦して優勝を勝ち取るという「空気読めない&おとな気ない」(小暮)ワイルドさからもうかがえる。
Whenever Wherever Festival 2021では、山﨑広太企画・演出による「Becoming an Invisible City Performance Project〈青山編〉」 に参加(2021年、スパイラルホール)。
「ダサかっこわるいダンス」というお題で、ダサい衣装で集まったダンサーたちが懸命に即興を繰り広げる演目では、小暮だけがぜんぜんダサくもかっこ悪くもないが特異すぎる「居かた」を見せ、それがかえって尖って超然としていた。
DaBYの企画による「Tokyo Jazz 20 th」ライブ配信(2021年、Blue Note Tokyo)でも同様。夜のクラブでセクシーなドレスに身を包んだダンサーたちがジャズバンドと共演するという婀娜っぽい設定のなかで、小暮がひとりでユニセックスな植物性の透明感を見せていたのが痛快だった。
柿崎麻莉子の演出による『wild flowers』(2020/2021年、さいたま芸術劇場)、「WINGY」(2022年、神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI)への参加も、作品自体の持つ洗練された奔放さに小暮の伸びやかな身体が気持ち良くフィットしていた。
その後、柿崎麻莉子、中村蓉との新しいプロジェクト「MOSA/月面着陸」をローンチし、今後も活動が待望されている。
鈴木ユキオプロジェクト「刻の花/moments」(2022年、シアタートラム)への客演も記憶に新しい。さまざまなダンサーが混在する出演陣で、作品世界とそこでのポジションの取り方を飲みこみ消化するクレバーさと素直さを兼ね備えた小暮の立ち位置は、彼女の身体性の癖が生かされていた。
「場」に対する浸透力と自律性を共立する身体のリアリティ
この2月にはソロ公演『D ea r 』を上演した。
本作は、『遥かエリチェ』(2013年)、『ミモザ』(2015年)、『ユートピア』(2017年)に続く、『Dear 』(2021年、天使館)の改訂版である。初演では一般から集められた"Dear”と言う音声を使用し、「個人的な記憶、人や場所を頼りに」(小暮)創作された。
本公演の会場BankART Stationは、みなとみらい線新高島駅に隣接した地下スペースで、コンクリートの無機質な空間にはときどき電車の音や振動が伝わってくる。
その奥に向かって極度に細長く設けられたアクティングエリアに、真っ白の帯状のリノリウムシートが道のように敷かれ、ほぼ同じだけの長さの客席と対峙する。舞台としては異例の空間構成がここでは絶妙の異化効果をもたらした。
おおかたの予想を翻すように、小暮は上半身に何も纏わず、ヌードの背中を見せてそこに入ってくる。彼女が抱えた大型のフロアランプの灯りが骨格や筋肉の動きを浮かび上がらせる。やがて床の動きに移ると、重量のある白いシートが引き寄せられて波打ち、折り畳まれたドレープが衣のように身体を覆う。
打楽器のほかさまざまな音を自在に操る音楽家・角銅真実が、小暮の身体と意識の動きに伴走する。
オーバーサイズニットのなかでゆったりと身体が泳ぐムーヴメントを見せるシーンでは、そのリラックス感が伝播したかのように、角銅も離れた場所でフリースタイルのダンスを踊っている。「作品の奥行きや風通しを汲み取り、見つけだしてくれた」(小暮)という音楽家と振付家の信頼関係が生かされていた。
「今回、いつかやってみたいと思っていた演出を全部やってみることにしました。冒頭のシーンでは裸の身体を見せましたが、私は以前から自分の身体にコンプレックスを持っています。〈嘘のない居かた〉をするために、主語でない身体はどこにあるのか、その空間的な位置づけを見つけようとしました。舞台上のオブジェや空間のスケールとの関係や情景から引き出される動きを紡いでみよう、と。
巨大なニットはデザイナーのKota Gushikenさんにお願いしました。セーターやスリッパ、フロアランプなどを使って、ゆるゆる、だらりんとしたホーム感を出したかった。このシーンでは泣いている観客の方がいて、客席が近いのでこちらまで聴こえてきました」
もうひとつ、鏡面のシートが水たまりのようにフロアに置かれている。そこでの踊りは、まさに小暮ならではの、真っすぐに立つ華奢な水鳥とその翼から滴る水を思わせるものだ。
音、光、身体、オブジェ、空間さえもが透明感を帯びるような、その詩性あふれる演出に陶然とさせられた。空間の的確な配置や照明の緩急といったテクニカル面も作品世界を見事に表現している。「(一般に)ソロ公演はどうしてもストイックさを感じさせますが、この作品ではくつろいだりありのままの身体とニュートラルな語りのなかで、テクニックを魅せるダンスだけでは削ぎ落とされて失われていくノイズの複雑さみたいなものを届けられたかなと思います」
これまでも小暮香帆だけが持つ特異な身体性と、純度の高い水を思わせる清涼なイメージに魅了されてきた。一方、こうしてダンサーとしての活動歴を思い返し、アップデートされたソロダンスの作品の余韻を味わっていると、彼女の「場」に対する浸透力ときっぱりとした自律性が共立していることに改めて気づかされる。
一癖も二癖もある表現者とのコラボレーションがいずれもスムーズかつ豊かに結実してきたことは、実は特別なことであり、それは小暮の持ち味である真摯な親和性によるものだ。
また、個人の創作の「場」でも、作り手として立つ環境や風景との関係性や距離感を鋭敏につかみ取り、昇華していく独自の表現力を身につけてきた。
今後も引き続き、DaBYの恵まれたスタジオを拠点に「オープンな場所での孤独な作業」による「心身共に健康的なクリエイション」(小暮)に集中する日々が続く。
また3月には京都で倉田翠主宰「akakilike」の新作に、何度か協働してきたダンサー・アーティストAokidらと共に出演する。
異質なものたちとの出会いや摩擦さえもインスピレーションに換え、唯一無二のリアリティを持つ身体性をますます発展させていくことを期待したい。
会場協力:Dance Base Yokohama
取材・文:住吉智恵
写真:大野隆介(注釈のあるもの除く)
【プロフィール】
小暮香帆(コグレ・カホ)
ダンサー・振付家。6歳より踊り始める。国内外で自身の作品を発表しながら、様々な領域で動きの美学を展開。また笠井叡をはじめ多数振付家作品に出演、海外ツアーに参加。近年はミュージシャンや他ジャンルのアーティストとのコラボレーション、映画/映像作品への振付出演、“beautiful people”S/S2023パリコレ出演など活動の幅を広げている。DaBYレジデンスアーティスト。2022年度アーツコミッション・ヨコハマU39アーティスト・フェロー。めぐりめぐるものを大切にしている。
https://kogurekaho.com/
【インフォメーション】
akakilike 新作ダンス公演『15:00(静かに)電子レンジを壊す』
演出:倉田翠
出演:Aokid 倉田翠 小暮香帆 仲谷萌
日時:2023年3月24日(金)20:00~
3月25日(土)13:00~/18:00~
3月26日(日)11:00~/16:00~
会場:NEUTRAL・Gallery PARC