「2025年度 ACYアーティスト・フェローシップ助成」において、4名の採択者を決定しました。
・Aki Iwaya(アーティビスト)
・城戸 保(写真作家)
・小林 勇輝(現代美術家・パフォーマンスアーティスト)
・安田 葉(アーティスト)
詳細はこちら
「ACYフォーラム vol.5 横浜発の創造性:広がるつながり、新たなチャレンジ」の情報をリリースしました。
横浜市内外で活躍する人や活動を紹介し、創造性を軸に横浜の未来を語り合うイベント、「ACYフォーラム」。
2025年は、横浜で新たな創造的活動が始動し、新しいスペースがオープンします。こうしたタイミングを捉え、新たな活動の運営者とアーティストやクリエイターをはじめ、企業、行政などの多様なプレーヤーが出会い、つながる場をつくれないかと考えました。
本フォーラムは、登壇者と来場者がともに「これから、どんなことができるだろう?」と横浜発の創造的な未来を考え、交流する機会です。
登壇いただく運営者の方々には、各団体の概要や共催・共同事業の展望、貸しスペースの活用可能性、現在求めている情報などについてもお話しいただきます。
後半には、来場者とのディスカッションや情報交換会を予定しています。対話や交流を通して、新たなアイディアや展開、協働の可能性が生まれることを期待しています。
詳しくはこちらから
https://acy.yafjp.org/projects/2025/129813/
概要
日程:2025年7月11日(金) フォーラム15:30-17:00/情報交換会17:00-17:45
会場:BUKATSUDO(横浜市西区みなとみらい2丁目2番1号ランドマークプラザ地下1階)
内容:第一部…登壇者によるプレゼンテーション 第二部…ディスカッション
料金:無料(事前申込制、先着順)
定員:50名
アートやデザインを軸に横浜各地で共創、協働を生み出すプログラム「アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)」。1年間の活動を伝えるイベントを、2025年2月15日(土)に開催しました。
「ACY アーティスト・フェローシップ助成(以下、フェローシップ助成)」2024年度の活動を振り返る第1部と、その助成制度の評価プロセスの研究を報告する第2部で構成される報告会に加えて、ACYの活動を紹介するパネル展示、協働パートナーたちによるワークショップが行われました。
報告会
第1部 「アーティストがまちにいることで見えた風景 ~アーティスト・フェローシップ助成活動報告~」
「アーティストがまちにいることで見えた風景」と題した第1部。2024年度のフェローシップ助成に採択された5名のアーティストが1年間の活動報告を行いました。
フェローシップ助成は、特定の展覧会や公演に対する助成金の支出ではなく、アーティストのキャリアアップのための制度です。新しい表現を追求しながら創作活動に励むアーティスト(美術および舞台芸術で活動する個人)を対象とし、100万円の助成金に加えて、ACYが長年培ってきたネットワークを活用した伴走的な支援を行っています。
また、2024年度からは横浜市内に1週間以上滞在することが要件に加えられ、市内各地でユニークな活動を展開する5つのコミュニティ拠点に、5人のアーティストがそれぞれ滞在。
第一部の進行を務めたプログラム・オフィサーの小原光洋から、「アーティストのみなさんが横浜の風土、文化を調べることやそこに暮らし活動する人々と交流することが、作品の成熟や創作アイデアの発見などにおいて良い影響をもたらすと考えている」と拠点滞在制度への抱負が伝えられました。
アーティストによる活動報告では、各拠点の運営者と年間を通じて活動をみてきた審査員の方々も各1名ずつ登壇しました。
敷地理(アーティスト・フェロー/ダンサー・振付家)
×黒田杏菜(拠点運営者/Murasaki Penguin Project Totsuka)
×野上絹代(審査員/振付家・演出家、多摩美術大学美術学部演劇舞踊デザイン学科専任講師)
ベルギーと日本を拠点に活動する敷地理さんは、「能の『井筒』からつくる新しいlap dance」をテーマに、新作に向けたリサーチを行いました。
「『井筒』は能の演目の1つで、そこにみられる『男性の身体で演じられる男装する女性の亡霊』や能に顕著な『極度に遅延した動きや声』といった部分に興味をもちました。また、lap danceは1対1で行われる親密なダンス。不特定多数に対してパフォーマンスをするのとは違う空間に関心があります」
滞在拠点となった「Murasaki Penguin Project Totsuka」では、同世代のアーティストたちを迎えて共同リサーチとワークインプログレスを実施した敷地さん。「若手のアーティストが集まり共同する場をつくることは難しい。誰かがサポートを受けられたタイミングで、そのサポートを誰かとシェアできるのがいい」と振り返りました。
Murasaki Penguin Project Totsukaの黒田杏菜さんは「特に『No』のワークショップが印象的だった」と話しました。
「敷地さんが1日の始めに必ず行うウォームアップの1つで、私も毎回参加させてもらいました。lap danceは親密な空間になってしまうため、『No』と相手に自然に言える環境をつくっておきたいと。『触ってもいいですか?』『だめです』というのを毎日繰り返す。緊張の崩し方が面白いなと思いました」
審査員の野上絹代さんは「相反するものがさまざま出てくるのが興味深かった」とコメント。「lap danceと日舞を合体させた試作は特に面白く、舞台上にあがった一人の観客のためのダンスを、大勢の観客が観ているという構成。前にいる1人の観客の状態も、パフォーマンスと同じように見るものの脳内に迫ってくるから、次元がねじれたような不思議な体験でした」
工藤春香(アーティスト・フェロー/アーティスト)
×熊谷恵美子(拠点運営者/左近山アトリエ131110)
×長谷川新(審査員/インディペンデントキュレーター)
工藤春香さんは、2021年から障害当事者運動についてリサーチしており、今回、横浜における障害児の「親の会」の活動に着目。親たちの働きかけが、横浜市の現在の障害福祉制度につながったことを知り、その活動をもっと知りたいと考えたそう。
神奈川県障がい者芸術文化活動支援センターからの情報提供を得て、「親の会」の歴史を知る方々への取材を進めました。一方で、母親が親の役目を離れた時間をもつことにも目を向けたいと考える工藤さんは、障害のある子どもの母親を対象とした粘土のワークショップを企画。滞在拠点である左近山アトリエ131110に、左近山特別支援学校を紹介してもらい、参加者募集や会場を提供してもらいました。
「何かを触りながら話すことで緊張がほどける。母親である前に1人の人間として、好きなものや今後やってみたいことなどを話し合いながら進めました」
粘土作品は、後に開催した展覧会で展示。展覧会では、親の会の歴史年表を題材にした作品、横浜市の障害者に関係するさまざまな場所を地図上に印してそれらを糸でつなげた作品、そして触ることもできる左近山とその周辺の地形の建築模型なども。この地域がつくられてきた過程のなかに、障害があったり、年を重ね体が不自由になったりした人も含め、さまざまな人たちがいることを想定していたのかどうか。工藤さんはその現実をあらためて作品たちから見つめ、問いかけていく思いがあったと語りました。
左近山アトリエ131110の熊谷恵美子さんは、「展覧会をしたから見えた風景があった」と振り返ります。
「工藤さんの取材日記のなかにある『私たちは自分の見える風景しか見ることはできない。しかし、少しでも知ることで違う風景を想像することはできる』というのは、アトリエ運営においても大切なことだなとあらためて感じました」
審査員の長谷川さんは、「展覧会では、親たちによる社会闘争の側面と、親、特に母という役割の外にどのようにでられるかということの両方を見せようとされていた。これは、工藤さんがやろうとしたことと、滞在拠点のサポートが、本当にうまく重なり合った結果という印象をもった」と、拠点とアーティストのマッチングについても言及しました。
永田康祐(アーティスト・フェロー/アーティスト)
×関口春江(拠点運営者/Co-coya)
×天野太郎(審査員/東京オペラシティアートギャラリー チーフ・キュレーター)
永田康祐さん(映像参加)は、食文化に関するリサーチをベースに、映像作品やコース料理形式の作品などを制作しています。
今回、滞在拠点「Co-coya」とつながりのあるお菓子作家や料理家、農家のもとでリサーチを実施。また、Co-coyaプロジェクトメンバーの1人は醤油搾り師でもあり、その集会にも参加したとのこと。
滞在の最終日には、言語や食文化を翻訳的視点から考察する過去作《Translation Zone》(2019)の上映会と、中山でのリサーチをもとに新しい料理を制作したフードイベントを開催しました。
「廃棄される醤油の搾りかすをどう生かせるか考えたり、除草されてしまう食べられる雑草を調べ、それを使った料理を組み立てたり。今までは商用醸造にしか関心を向けていなかったけれど、今回の活動をとおして、生活に根ざした醸造へも関心をもつようになりました」
また、現在横浜の都市部で暮らしている永田さんは、緑区中山での滞在を経て、都市と農村が両立する空間が存在することに気づかされたそう。「都市空間における土について考えていきたい」と、横浜での今後の活動テーマを示しました。
Co-coyaの関口春江さんは、「滞在中は毎日夕食をともにし、永田さんのリサーチの様子を日々シェアしてもらう1週間だった」と振り返りました。
「永田さんは食の文化的な背景や味覚に関して、とても多くの情報をもっている。最終日の《Translation Zone》を見て、それは綿密なリサーチの裏付けがあってこそだと理解しました。中山で出会った食材を使い、彼なりの解釈で表現するということを、中山で関わったみんなで共有できたことが刺激的でした」
審査員の天野さんは、現在開催中の恵比寿映像祭での永田さんの作品《Fire in Water》について語りました。
「韓国のマッコリをめぐる話。日本統治時代の酒造法などが絡み合ってくるので、結構複雑な背景のなかで展開していく。ただ、永田さんは、どっちが悪いとか良いではなく、関係が変化していくことについて冷静に見ている。そこが興味深かったです」
鎌田友介(アーティスト・フェロー/美術家)
× 若林拓哉 (拠点運営者/ARUNŌ-Yokohama Shinohara-)
× 藤原徹平(審査員/フジワラテッペイアーキテクツラボ代表、横浜国立大学大学院Y-GSA准教授)
鎌田さんは、建築をテーマに、映像や写真などを用いてインスタレーション作品を制作しています。
今回の応募は、本牧にある三溪園の創設者であり、実業家の「原三溪」への深い関心から。原三溪が、美術・建築を積極的に支援していた一方で、当時日本の植民地だった朝鮮で土地開発や事業活動をしていたことを起点にリサーチを開始。横浜開港資料館や図書館での資料調査、三溪園や韓国での実施調査、専門家との意見交換などを行い、さまざまなことがわかってきたと語りました。滞在拠点の「ARUNŌ-Yokohama Shinohara-」で開催した中間報告会には専門家なども来場しました。
ARUNŌの若林さんは、ちょうど今、三溪園の近くでリノベーションプロジェクトを進めており、鎌田さんの滞在に運命的なものを感じたそう。
「原三溪については勉強しているのですが、朝鮮での活動は、伝記などでも本当に一部しか書かれていない。現地調査をしている鎌田さんの活動にふれ、中間報告会で研究されている方々と対話をしたことで学べたことがたくさんありました。リサーチの過程の関係性のなかにいられるのがすごく面白いです」
審査員の藤原さんは、原三溪の総合芸術家としての側面にもふれました。
「三溪園は原三溪の自邸ではあったのだけれど、本格的な造園をはじめたほぼ最初から、その造園部分をパブリックに開き公園とした。また、彼は周辺の住宅地を田園都市みたいに開発していたという。さらに、三溪園に移築したいくつかの茶室は、原三溪の指示のもと改築されている。それがすごく上手いんですよ」
藤原さんの話を聞いた鎌田さんは、原三溪の生家がある岐阜でのリサーチについても共有し、その後も、原三溪のデベロッパーとしての側面から絵画技術の話まで、原三溪談義で盛り上がりました。
野村眞人(アーティスト・フェロー/演出家)
× 渡辺篤 (拠点運営者/アートスタジオ アイムヒア)
× 岡本純子(審査員/公益財団法人セゾン文化財団 シニア・プログラム・オフィサー)
野村さん(オンライン参加)は、近年、精神医療の現場や故郷などの個人的な場所にでかけ、そこでのリサーチをもとに作品を制作しています。
滞在拠点「アートスタジオ アイムヒア」がある弘明寺では、「人との出会い」を軸に制作に取り組みました。
過去作品も含めたイベント「上演と展示『分身と観客』」の実施を、滞在の最終目標にしていた野村さん。「劇場ではない場所(滞在拠点)に観客席をどうつくるか」「横浜での制作を何か形にしたい」という2つの課題に直面したと話しました。ACYや渡辺さんとの対話のなかで、「街から観客席を集める」というアイデアが生まれたそう。集めた椅子たちは、上演では観客席に、展示では『街の観客席』として展示されました。
野村さんは、「渡辺さん、ACY、まちの方々との交流が、作品やイベントの質に直結し、有機的なつながりをつくれた。今回コンセプトとしたものが今後はバックグラウンドになり、新たな活動に向かっていく一歩になった」と語りました。
アートスタジオ アイムヒアの渡辺さんは、「彼がどのように他者と関わるかを興味深く見ている時間でした」と振り返りました。
「僕は、アーティストとしては商店街とあまり接続しない。僕にとって日常すぎるがゆえだと思います。反対に、野村さんは人と出会いに来ている。僕が普段、事務仕事をするためだけに行くカフェやお弁当を買いに行くお店のオーナーと交流し、それを彼は演劇の拡張として捉えていることが面白いなと」
審査員の岡本さんは、フェローシップ助成は「アーティスト・拠点・地域がいかに融合するかが、大きなポイントの制度」だといい、「結果的に野村さんの滞在を通じて渡辺さんも交流が増えましたか?」と問いかけました。「野村さんが毎回どんな話をしてきたかを報告してくださるので、街に対する理解度が上がった」と渡辺さん。
このあとの第2部で報告された本助成の価値にもつながる対話が展開されました。
第2部 「アーティストの創作活動支援の価値を可視化する調査研究の報告会」
ACYは2024年度、九州大学大学院の中村美亜先生とともに、文化的価値を測る評価指標の策定とアカウンタビリティの向上を目指すための共同研究を実施。第2部では、研究報告書をもとに、そのプロセスや結果について中村先生から発表されました。
本研究は、現場スタッフと評価者が伴走的に評価活動をしていく「発展的評価」という方法が用いられました。これにより、現場スタッフにいろいろな気づきや学習が生まれ、評価と事業改善・発展が一体的に進められるのです。
中村先生は、まず、内閣府が出している「社会的インパクト評価検討ワーキング・グループ」の文章を引用しながら、そもそも評価とは何か、どんな課題があるかを話しました。
「近年、文化事業の評価が重要視されています。しかし多くの場合、計画通りにできているかや測りやすい数値(参加者数や稼働率)のチェックなどで、掲げられているビジョンに到達する方法は示されていない。評価=evaluationを分解すると、valueは価値で、eは引き出すという意。つまり『評価とは、単なる測定ではなく、価値を引き出す』こと。評価は客観性が大事だとよく言われますが、客観的で厳密な評価をしても、それがあまり現場で役立っていないことがいろいろな研究でわかってきた。客観性と実用性のバランスをとるのは難しいけれども、現場がよりよいものにならないと、評価は意味がないのです」
そして今回の研究では、「What:事業によってどんな価値が生まれているのか」、「How:どうすれば達成できるか」を明らかにするため、Whatにはアウトカムハーベスティング、Howにはロジックモデルという方法を組み合わせて評価を進めたことが紹介されました。
その後、具体的なプロセス、その結果と今後よりよくしていくための評価指標の提案、そしてあらためてACYにはどんな強みがあるのかを示しました。
「今回の研究では、『フェローシップ助成は、アーティストと横浜のリソースを結びつけて化学反応を引き起こし、横浜を創造的に活性化するもの』であると結論づけました。ACYの強みは、①横浜の創造都市施策と一体的な活動展開、②これまで培ってきた人材ネットワークとその活用、③信頼性の高い情報発信、④手間を惜しまないアーティストや拠点への支援活動です。
これを生かし、横浜のリソースに関する情報の蓄積と活用方法の獲得、さらに発展させていくことがACYの役割であり、横浜が創造的に活性化していくことにつながります。詳しい内容はぜひ報告書をご覧いただければと思います。ただの報告書ではなく、ほかの事業でも使ってもらえるように工夫してつくりました。この方法をいろいろなところで実践していただき、『そもそもの芸術文化活動の価値』の認識が広がっていくことを期待しています」
活動紹介展示とワークショップも同時開催
報告会が行われた会場の奥では、2007年の設立から続くACYの活動年表やその活動がまちに広がった様子、そして2024年度の主催・共催事業の成果が、パネル形式で展示されました。
また、ACYと協働する「関内外クリエイターズ」や「ミナトノアート」のクリエイターによるワークショップも同時開催。
「関内外クリエイターズ」による、会場のサインのミニチュア版を用いた「あなたの好きな横浜を組み立てよう!」や、「アートルームルミエール」のアルコールインクを使ったオリジナルコースターづくり、「MO!asobi」の「スーパーハイパー力士を作ってあそぼう!」など。親子の参加者も多く、報告会の間も子どもたちの楽しそうな音が聞こえ、にぎわいをみせていました。
それぞれの地域の特性をとらえ運営されている各拠点。多角的な切り口でリサーチと作品制作に取り組むアーティストたち。フェローシップ助成で、この2つがつながることにより生まれる新たな広がりや、ACYが蓄積してきた土台としてのネットワーク、そしてスタッフたちのサポートの大切さがあらためて確認されたACY感謝祭。閉会後は、来訪者や登壇者たちが交流する姿もみられ、さらなる広がりを感じました。
取材・文:安部見空(voids)
写真:大野隆介
登壇者プロフィール
2024年度 ACYアーティスト・フェロー
鎌田 友介(美術家)
歴史や社会の状況を反映するとともに、国家の文化やアイデンティティ形成のツールにもなる建築をテーマに美術と建築を横断する活動を続ける。
近年は日本占領下の韓国や台湾で作られた日本家屋やアメリカ合衆国で焼夷弾実験のために作られた日本村の設計などの調査を通し、異なる歴史的背景と場所において日本家屋が孕んだ多様な意味を描き出すプロジェクトを手がける。近年の主な展覧会に「Geopoetics: Changing Nature of Threatened Worlds」(国立台湾美術館、2023年)、「ホーム・スイート・ホーム」(国立国際美術館、2023年)など。
工藤 春香(アーティスト)
東京都生まれ。
社会的な課題へのリサーチを基に、社会の周縁におかれる立場の人々への想像から、テキストやオブジェ、映像を組み合わせたインスタレーションを制作している。コレクティブ「ひととひと」メンバー。主な展示に、障害者政策と当事者運動の100年の歴史を取り扱った「MOTアニュアル2022私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」(東京都現代美術館、2022年)、「ひととひと」企画展「女が5人集まれば皿が割れる」(北千住Buoy、2021年)
敷地 理 (振付家、ダンサー)
ベルギーと日本を拠点に活動。外側から自分を見ることができない中、自分に最も近い物質で構成された他者の身体を見ることを通じて、どの様により強い現実感を捉えられるかに興味を持つ。その過程において、まなざしの政治性、暴力性に注目しながら人間の身体に対するあらゆる識別方法を曖昧にし、一時的に作り変えることに関心を抱いている。
永田 康祐(ア-ティスト)*映像出演
1990年愛知県生まれ、神奈川県を拠点に活動。
自己と他者、自然と文化、身体と環境といった近代的な思考を支える二項対立、またそこに潜む曖昧さに関心をもち、写真や映像、インスタレーションなどを制作している。近年は、食文化におけるナショナル・アイデンティティの形成や、食事作法における身体技法や権力関係、食料生産における動植物の生の管理といった問題についてビデオエッセイやコース料理形式のパフォーマンスを発表している。
野村 眞人(演出家)*オンライン
演出家。レトロニムのメンバー。
京都を拠点に演劇に取り組んでいる。人・場所・環境の現実的な関係に演劇を引用し、アクチュアルなフィクションに再構築する。近年は、青森県津軽地方での墓にまつわるフィールドワークや、精神医療従事者や高齢者福祉施設での聞き取り等をベースとした作品・プロジェクトに取り組んでいる。また、俳優として村川拓也作品、庭劇団ペニノなどにも参加。利賀演劇人コンクール2018優秀演出家賞受賞。「部屋と演劇」のメンバーでもある。
アーティスト受入先の拠点
アートスタジオ アイムヒア(登壇者:渡辺 篤)
ひきこもりをはじめとする孤立を感じる人々の声や当事者事情を、現代美術家・渡辺篤が当事者と協働する形で社会に向け発信し、アートが社会に直接的な作用をもたらす可能性を模索するアートプロジェクト「アイムヒア プロジェクト」と、株式会社泰有社による共同運営のオルタナティヴスペース。
ARUNŌ -Yokohama Shinohara-(登壇者:若林 拓哉)
新横浜駅近くの旧横浜篠原郵便局を活用した文化複合拠点。「未知への窓口」をコンセプトにしたシェアスペースやカフェ、ポップアップテナント等からなる施設。
Co-coya(登壇者:関口 春江)
空き家をリノベーションした職住一体型の地域ステーション。土壁や漆喰、草屋根など自然を感じさせる改装手法が活かされ、多種多様な活動が繰り広げられている。
左近山アトリエ131110(登壇者:熊谷 恵美子)
大規模団地、左近山団地内ショッピングセンターの店舗を活用したアート拠点。ギャラリー・ワークショップ・カフェなど、屋外の広場とも連携し様々な活動を展開している。
Murasaki Penguin Project Totsuka(登壇者:黒田 杏菜)
2022年9月にオープンしたパフォーミングアーツとマルチメディアアートの新しい拠点。ダンスや演劇、音楽、映画など、さまざまな形態の作品発表が可能。
2024年度 ACYアーティスト・フェローシップ助成 審査員
天野太郎(東京オペラシティアートギャラリー チーフ・キュレーター)
2022年より現職。美術評論家連盟所属。昭和女子大学、城西国際大学非常勤講師。主な担当展覧会に、横浜美術館での「ルイーズ・ブルジョワ展」(1997年)、「奈良美智展 I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.」展(2001年)、横浜市民ギャラリーあざみ野での「考えたときには、もう目の前にはない 石川竜一」(2016年)、「今井俊介 スカートと風景」(2023)などがある。「横浜トリエンナーレ2005」キュレーター、同トリエンナーレ2011、2014キュレトリアル・ヘッド、「札幌国際芸術祭2020」統括ディレクターを務めた。
岡本純子(公益財団法人セゾン文化財団 シニア・プログラム・オフィサー)
美術大学卒業後にコマーシャルギャラリーに就職。非営利団体での芸術に関わる仕事、若いアーティストとの関わりを求め、セゾン文化財団に転職。プログラム・オフィサーとして、アーティスト支援や、舞台芸術の環境改善事業支援に携わってきている。
2017-2023年度、「横浜市創造界隈形成推進委員会」委員。飼っていた猫、地域猫と親しむうち、猫の役に立ちたいと思うようになり、「横浜市動物適正飼育推進員」も務めている。
野上絹代(振付家・演出家、多摩美術大学美術学部演劇舞踊デザイン学科専任講師)
1982年東京生まれ。多摩美術大学造形表現学部映像演劇学科卒業。幼少期よりクラシックバレエ、高校から振付け活動を開始。大学在学中、劇団快快(FAIFAI)に旗揚公演より加入。以降、俳優・振付家として同団体の国内外における活動のほとんどに参加。ソロ活動では俳優・振付に加え演出力を武器に演劇/ダンス/映像/ファッションショーなど幅広く活動。
長谷川新(インディペンデントキュレーター)
主な企画に「クロニクル、クロニクル!」、「不純物と免疫」、「αM Project 2020-2021 約束の凝集」、「奈良・町家の芸術祭 はならぁと2023 宇陀松山エリア SEASON2」、「陸路(スピルオーバー#1)」など。Tokyo Art Beatにて「イザナギと呼ばれた時代の美術」を不定期連載中。共訳にジュリア・ブライアン=ウィルソン著『アートワーカーズーー制作と労働をめぐる芸術家たちの社会実践』(フィルムアート社、2024)がある。
藤原徹平(フジワラテッペイアーキテクツラボ代表、横浜国立大学大学院Y-GSA准教授)
建築のデザインだけでなく、アートフェスティバルの企画や基本構想、地域産業の再生、まちづくりや教育プログラムの企画など横断的に地域の暮らしのデザインに取り組む。主な作品に<等々力の二重円環>、<代々木テラス>、<稲村の森の家>、<クルックフィールズ>、<那須塩原市まちなか交流センター くるる>、<リボーンアートフェスティバル2016,2017,2019>、<横浜トリエンナーレ2017>など。2013年より宇部ビエンナーレ選考委員、展示委員を務める。著書に『7inch Project〈#01〉Teppei Fujiwara』など。主な受賞に横浜文化賞 文化・芸術奨励賞、日本建築学会作品選集 新人賞、日本建築士会連合賞奨励賞、東京都建築士会住宅建築賞など。
第2部登壇者
中村美亜
九州大学大学院芸術工学研究院教授。専門は文化政策・アートマネジメント研究。芸術が人や社会に変化をもたらすプロセスや仕組みに関する研究、またそれを踏まえたケア、社会包摂、評価に関する研究を実践的・学際的に行なっている。訳書に『芸術文化の価値とは何か―個人や社会にもたらす変化とその評価』(水曜社、2022年)、編著に『文化事業の評価ハンドブック―新たな価値を社会にひらく』(水曜社、2021年)、『ソーシャルアートラボ―地域と社会をひらく』(水曜社、2018年)、単著に『音楽をひらく—アート・ケア・文化のトリロジー』(水声社、2013年)など。日本文化政策学会、アートミーツケア学会理事。日本評価学会認定評価士。
ー開催概要ー
報告会
日時:2月15日(土)14:00~18:00
会場:横浜市役所アトリウム
参加者数:117名
活動紹介展示
日時:2月7日(金)~2月17日(月)7:00~23:30
場所:横浜市役所1F展示スペースA
2024年度 ACYアーティスト・フェローシップ助成 活動報告書を公開いたします。
ACYでは、2024年度に九州大学の中村美亜研究室と共同研究を行いました。
その報告書を公開します。
「ACYアーティスト・フェローシップ助成」の評価に関する共同研究
研究担当:国立大学法人九州大学大学院芸術工学研究院 中村美亜研究室
公益財団法人横浜市芸術文化振興財団 経営企画・ACYグループ
実施記録:オンライン会議(編集を含む)9回[計約15時間]、対面ワークショップ2回[計約7時間]、現地調査1回(2拠点を訪問)[計約7時間]、オンラインインタビュー5組6名[計約5時間]
「ACYアーティスト・フェローシップ助成」の評価に関する研究報告書
―アーティストの創作活動支援の価値を可視化する試み
監修:九州大学大学院芸術工学研究院 中村美亜
編集:株式会社ボイズ 安部見空、及位友美
九州大学大学院芸術工学研究院 中村美亜
アーツコミッション・ヨコハマ 小原光洋、森絵里花
協力:岡田容子、黒田杏菜、坂本夏海、齋藤好貴、齋藤梨津子、関口春江、David Kirkpatrick、長岡親一郎、森祐美子、八島道夫(敬称略)
デザイン:デザイン事務所Folk
印刷・製本:株式会社ココラボ
発行:公益財団法人横浜市芸術文化振興財団 経営企画・ACYグループ
〒231-0023 横浜市中区山下町2 産業貿易センタービル1階
2025年2月14日発行
アーツコミッション・ヨコハマ(以下、ACY)では注目する人と場を紹介し、創造性を軸に横浜の地域の未来を議論するACYフォーラムを開催しています。第四弾は2024年 8月22日(木)、横浜市市民協働推進センター スペースA・Bにて「続・子どもの居場所・学び場と文化芸術のまちでの交点」を開催しました。
子どもの居場所・学び場づくりに文化芸術はどのように寄与できるか、学校や家庭以外の社会教育・社会包摂の場の作り方を考えたことから、昨年度に引き続き同テーマを深めるべく横浜市や他市町村の事例を聞く場を設けました。
今回は特に中高生の年代との活動に焦点をあて、携わっているユース世代の方々も登壇いただき、声を聞きました。
第一部:事例紹介
第一部では各地で実践をされている方より活動をご紹介いただきました。
①水戸芸術館現代美術センター「高校生ウィーク」(茨城県水戸市)
水戸芸術館は音楽・演劇・美術を柱とした公立文化施設で、コレクションよりも企画に重きをおき、教育や地域との関わりを重視してきました。水戸芸術館の「高校生ウィーク」は、1993年から続く取り組みで、高校生をはじめとした若い人たちに現代美術に親しんでもらおうと創設したハイティーンパス(2018年販売終了)のお試し・販売促進期間として、春休みに展覧会を無料で鑑賞できるようにすることからはじまりました。1999年ごろから大型プリンターなど当時では珍しい機材を使える広報プロジェクトが始動。他の学校の生徒やボランティアと話すのが楽しいという声から2003年にカフェスペースを設置し、2004年からワークショップ室全体がカフェに。図書や造形コーナー、部活動コーナーなど様々な過ごし方ができるスペースがちりばめられています。
ただ居るだけでも、プログラムに参加するもよく、さらにはスタッフにもなれるなど関わり方が自身で選べます。希望者が3人集まれば、提案できる「部活」の仕組みもあり、作家やスタッフ、ボランティアなど、様々な大人との出会いの場にもなっています。また、現在は高校生の展覧会鑑賞は常時無料になったことから、活動の時期が広がっています。
大木花帆さんは小・中学生の時に参加した演奏会や演劇ワークショップをきっかけに、水戸芸術館に足を運ぶようになり、通算すると何百回と通っているので公民館のような場所だと言います。水戸芸術館は、子どもが自由にしていい、楽しい場所という印象があり、美術だけでなく、演劇、音楽と足を運ぶきっかけが複数あるのが良いのではとのこと。高校生ウィークのカフェは年上の大人たちと、フラットな関係で出会える場所で同じ空間を共有しているというだけで仲良くなれることが魅力と言います。時間がたち、大学進学で上京した後でも大切な人たちだと感じているそうです。
②特定非営利活動法人こころのまま「心のままアートプロジェクト」(静岡県沼津市)
「NPO法人こころのまま」の代表である沼田潤さんと、静岡県立田方農業高校の生徒の二人が、「心のままアートプロジェクト」を紹介しました。「アートを通じて地域と繋がる、地域を繋げる」を合言葉に、障害を抱える子どもたちや家族と社会、普段は混ざり合わないような人や場所を繋げることを目指しています。
NPO法人の前身は2017年に立ち上げた任意団体。知的障害や発達障害の子どもをもつ母たちが集まって「子どもたちの好きなことや得意なことを見つけよう」、「1人1人の役割をつくろう」、「将来の仕事に繋げて自分らしく過ごせる場所をつくろう」との想いで活動を始めました。言葉でのコミュニケーションが難しくとも、活き活きと表現をする子どもたちを地域に知ってもらうため、展覧会など福祉領域以外の人たちとの交流を企画してきました。
「心のままアートプロジェクト」では、地域の高校生と色員(いろいん)さんと呼ぶの障害のある子どもたちがアートワークショップにより交流を深めます。
どうしたら相手に伝わるのか、伝えてもらえるのか、ふれあって喜びをともに感じること、困りごとや疑問をともに考えることは教科書にない学びです。高校生の主体性を考えて、大人たちが準備をしすぎないようにしました。高校生サポーターが主体となって各回ふりかえりをして、良い環境を作ろうとし、得たものを後輩にも繋いでくれています。
登壇した二人が通う静岡県立田方農業高校は草花や野菜など身近な植物を使った園芸による福祉も学べるライフデザイン科セラピーコースが設けられています。渡辺さんは、将来は看護師を目指していて、心のままアートプロジェクトで学んだ知識や経験を将来に活かしたいとのこと。多田さんは、プロジェクトが楽しかったから2年目も続けたいと思ったのだと言います。
沼田さんはこれからも障害を抱える子どもたちやその家族が社会と繋がる場を作り、将来は何になりたいのか、もっとアートを通じて話し合える環境を作り続けたいと語りました。
③ArtLabOva「横浜パラダイス会館」(神奈川県横浜市)
ArtLabOvaは、1996年に横浜の桜木町でアーティストにより設立された非営利団体です。現在は横浜市中区にある多文化な下町・若葉町にて多目的なアートスペース「横浜パラダイス会館」を運営しているほか、福祉施設や学校などへの出張アトリエも開催しています。独立系映画館「シネマ・ジャック&ベティ」のある若葉町に拠点を構えてからは「よこはま若葉町多文化映画祭」「横浜下町パラダイスまつり」などを開催。古くから繁華街として栄え、現在では海外から移住してきた人も多いこの街を通して“世界”を垣間見ることができると蔭山さんはいいます。海外につながる子どもたちが多く、相対的貧困など困難な状況にある子が少なくありません。そこで子どもと関わるプロジェクトを始め、地元のユニークな方やアーティストたちとの様々なプロジェクトが生まれました。
横浜パラダイス会館が開いているのは木曜から日曜。現在は子ども食堂の助成金も用いて、食事を提供したり、フードパントリーも開催しています。子どもたちはふらりと立ち寄ってご飯を食べたり、愚痴を言ったり、勉強したりして過ごします。コロナ禍前に利用していた小中学生が持ち上がり、高校生が主になった今では、一番人が多い時間が22時ということも。
「ほってみる」というプロジェクトでは、「日常の中で出会う制度や枠組みに考えをめぐらせてアプローチを試みること」「能動性そのものに出会うこと」を目的とし、子どもたちの日常的な疑問や不満、願望から出発し、その過程で見えてくるものを探す、世界に触れるというプロジェクトです。魚釣りなどのささやかなことも、アートプロジェクトとして実現させています。
第二部 登壇者によるクロストーク
第二部では学校や福祉現場と芸術文化を繋ぐご経験の豊富な田中真実さん(STスポット事務局長)を聞き手にお迎えしました。ユース世代への質問や、「文化芸術が関わるからこその居場所や学び場」について掘り下げていただきました。
―――ユース世代の声
(田中さん)横浜にもたくさんの文化施設がありますが、市民にとって身近な場所であるためにさまざまな努力をしていると思います。大木さんにとって、水戸芸術館はどんな場所ですか。
(大木さん)職員さんやスタッフさんと近い距離で関わることができて、高校生ウィーク以外の期間に行っても、「久しぶり」「大きくなったね」と言われます。東京だとそれはできないのかなと思います。高校生の時にいたのは学校と家と水戸芸術館といえるくらい、身近な場所でした。
(田中さん)なんで東京だと距離があるように感じてしまうんでしょうか。
(大木さん)縮めようとしたことがあるわけではないから憶測ですが、東京は人口も多いし、展示も美術史での立ち位置など専門的な印象です。水戸は良くも悪くも開きすぎていなくて、市民の人や地域の人を大切にしているけれど、東京は生まれ育ちもいろいろな人が集まるし観光客もいます。対象とする人がそもそも違うのかなと思うと、仲良くなるのは難しいのかな…と。でも、仲良くしてほしいです(笑)
(田中さん)誰に向けた場所なのかは大事なことですね。また、「開きすぎない」という言葉もありました。開きすぎず閉じるでもない、そのバランスは静岡と横浜のお話にも通じると思います。
続いて、静岡のお二人に質問です。農業高校と特別支援学校の分校が一緒にあるというのは珍しいですね。お二人は障害のある方たちとの関わりは高校に入る前からありましたか?また、こころのままアートプロジェクトで関わったことで印象は変わりましたか?
(渡辺さん)高校に入るまでは障害のある人と関わったことはありませんでした。友達と話すみたいに気軽に話すのは難しいのかなと思っていたけれど、心のままアートプロジェクトに参加する色員さんは同じ年代が多く、話してみると障害のあるなしは関係なくて、全然変わらないんだなと思いました。イメージとは大きく変わりました。
(多田さん)家族が発達障害グレーゾーンで、自分にとっては身近な存在でした。でもグレーゾーンの人と障害のある人は違うんじゃないか、障害のある人は話せない、書けない、何もできないのではというイメージがありました。でも、心のままアートプロジェクトで関わった人たちはずっと手をつないでくれたり、とても楽しそうな笑顔でいてくれたりと、思っていたイメージと違いました。障害の重さやグレーゾーンなどは関係なく、コミュニケーションが取れるんだなと思いましたし、誰にとっても笑顔が幸せの表し方なんだなと感じました。
(田中さん)「支援する―される」「助ける―助けられる」ではない関係性を築いていたことが伺えますね。続いて、横浜のお二人に伺います。あやかさんとヘンさんにとって(蔭山)ヅルさんと(スズキ)クリさんはどんな方ですか。
(あやかさん)いい良い意味で変なんですけど、私たちに寄り添ってくれて、家族みたいな人です。
(ヘンさん)学校を中退する時にどうすればいいか相談に乗ってくれたり、いい人だと思ってます。
(田中さん)良い人だと思っていた、と過去形じゃないのが良いですね。横浜パラダイス会館に行きはじめたきっかけや、印象に残っていることがあったら教えてください。
(あやかさん)最初はインスタだったかな。困ったことがあって、助けてもらいました。頼れる人ができたと思いました。そこから勉強を教えてもらったりしました。
(ヘンさん)小学生の頃によく横浜パラダイス会館に遊びに行っていたときには踊ってる人がいたり、叫んでいる人がいたり、いろんな人がいるんだなーと思いました。学校にはたぶんいないと思います。
―――文化芸術やアートだからこその居場所や学びの場のあり方とは?
(田中さん)いろいろな居場所や学びの場がある中で、文化芸術やアートだからこその関わり方や場所のあり方について、伺えますか。
(蔭山さん)「居場所」というのは少し気恥ずかしいですね。飲み屋でもカラオケでも居場所になるけれど違う名前で隠れているだけだと思うので。NPOや学校などミッションがある場所はそれからずれたことはできないですよね。ただそこにていいということ、集まる人の各々の目的が違っても集まれるという場所が大事だと考えています。そこにおいて、アートは受け入れられるものが広いと思います。
(スズキさん)アートという存在は、隙間そのものではないかと思っています。隙間を見出すことによって、人や出来事、社会のうちにある枠組みや制度が浮かび上がってくる。そのことに面白さや創造性を感じます。
(蔭山さん)なにかを作ることを求められている気がしますが、始めは障害のある人たちと活動していたこともあって、何がアートなのかを考えていました。アトリエにやって来ても絵など描かず、たとえば私たちに帽子をかぶせて円陣を組ませて座らせるような人がいて、それが面白かったり、考えさせられたり。
(沼田さん)私たちに美術的な知識はなく、アートと言うのもおこがましいのですが、子ども達が好きそうなのが自分を表現していることなんです。ある方から「活動自体がアートだよね」と言っていただけたこともあって、最近では胸を張って「アートプロジェクト」として活動しています。活動を始めた当初、子どもの名前を出すのも避けたいという保護者もいらして、子どもたちを地域の方々に知ってもらう難しさを感じていました。作品を通じて子どもたちを知ってもらうこともできるので、私たちにとってアートはなくてはならない存在です。
(中川さん)水戸芸術館が現代美術を中心に扱っているということが大きいでしょうか。「こうじゃなきゃ」ということをフリーにして、真面目に真面目じゃないことができることが重要だと思います。「こうじゃなきゃ」をとっぱらって、その人自身に出会う、その人がやりたいことに近づくことができたのではないでしょうか。現代美術に「こうじゃなきゃ」がないからこそ、いろんなことができていると思います。
―――アートに関わる活動の中での自主性や能動性
(田中さん)居場所も学び場も大人が開かないと生まれない場所ではありますが、その中でも、その場にいる人たちが自分達で決める、考えていくことを各々の現場でされているように感じました。最後に、皆さんがアートに関わる活動の中で自主性や能動性をどのように捉えているのか、一言ずついただけますか。
(中川さん)大人同士でも、その人が尊重されている、大切にされているかを問い直すことが重要だと思います。そのような空気感がなければ、子どもたちも「ここは自分の場所だ」と感じることはできないのではないでしょうか。そのため、スタッフ側が「今、ここで何が起きているのか」を常に問い直し続けることが必要なのだと思います。
(沼田さん)私たち大人は一歩引いて、今日来てくれた二人をはじめとする高校生たちの自主性を尊重しながら場を託したいという思いがあります。このプロジェクトでの種まきが、10年後にそれぞれのいる場所で花開くと嬉しいです。
(蔭山さん)そもそも、横浜パラダイス会館は約束をして来るような場所ではありません。小学生のときは来ていたけれど、中学生になると来なくなった、でも最近またちょうどいい距離感で来るようになった、というケースもあります。(ヘンさんに尋ねると)「行きたいときに行き、会いたいときに会える。行かなくてもいいときには無理に行かなくていいのがいい」。彼が言うように、この選択の自由がとても重要だと考えています。中高生になると、気を使って「最近行けてなくてすみません」と言う子もいますが、変に恩を感じる必要はありません。
(スズキさん)能動性は、アートにおいて最も重要な要素の一つだと思います。しかし、自分のやりたいことが明確に分かっている人は意外と少なくて、それ自体が社会によって制限されていることもあります。何がやりたいのか、もしくはやりたくないのかとか、それを拾い上げて考えてみることがアートの働きのひとつなのではないでしょうか。
* * *
ユース世代の言葉を聞きたいと考えた、今回のACYフォーラム。文化施設での世代間交流やアートプロジェクトを通じた地域交流、多文化共生の視点を取り入れた活動の展開などそれぞれの活動で、主体性が重視されていました。そして、フラットで個人を大切にする大人たちのまなざしとともに、アートや文化が媒介となることで、自立心の芽生える年代の方々との自然なコミュニケーションが生まれるのかもしれません。これからの時代を生きる人が「まちの中に自分の居場所がある」と思えること、「きっと自分の未来に役立つだろう」と思う経験ができることに文化芸術になにができるか、考えることができる時間となりました。
来場者のアンケートでも9割以上が満足と答え、各団体へのエールのメッセージのほか「大人のねらいや想い以上のことを子どもたちが感じていることに感激しました。そうした信頼を築けるまで持続することの大切さと難しさにも考えをめぐらせました」「10代、ユースの当事者の声がとてもよかったです。自分に何ができるかな?と考える機会になりました。」といった声をいただきました。
ACYでは、これからも文化芸術と社会をつなぐテーマでフォーラムを開催する予定です。ご期待ください。
文:アーツコミッション・ヨコハマ
【ご紹介した事例の参考URL/登壇者プロフィール】
水戸芸術館現代美術センター「高校生ウィーク」(茨城県水戸市)
参考URL
高校生ウィーク2024人とアートに出会う5週間
高校生ウィーク アーカイ部
特定非営利活動法人こころのまま「心のままアートプロジェクト」(静岡県沼津市)
参考URL
特定非営利活動法人こころのまま
アートワークショップをはじめてみよう!「心のままアートワークショップ」で広がる世界
ArtLabOva「横浜パラダイス会館」(神奈川県横浜市)
参考URL
ArtLabOva(facebookページ)
よこはま若葉町多文化こども企画(facebookページ)
モデレーター:田中真実(認定NPO法人STスポット横浜 副理事長・事務局長)
大学では地理学を大学院では都市計画を学び、地域と芸術文化の関わりについて関心を持つ。2008年よりSTスポット横浜に入職。文化施設や芸術団体と学校をつなぐ横浜市芸術文化教育プラットフォーム事務局、地域文化をサポートするヨコハマアートサイト事務局の運営を行政と協働で行う。2020年より福祉現場と芸術文化をつなぐ神奈川県障がい者芸術文化活動支援センターを運営。NPO法人アクションポート横浜理事。芸術文化分野での中間支援のあり方について模索を続けている。
========
主催:アーツコミッション・ヨコハマ(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
共催:横浜市にぎわいスポーツ文化局
令和6年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業
#子育て・教育
#福祉・医療
#生活・地域
#まちづくり
#美術