令和の横浜使節団 三島編 フォトレポート

令和の横浜使節団 三島編 フォトレポート

「令和の横浜使節団」は、横浜の人々が他都市を訪れ、各地の創造的活動を通じた地域活性化の取組から得た知見を、横浜で活かすことを目的としたプログラムです。

横浜・みなとみらいの造船ドック跡地に誕生した大人のためのシェアスペース「BUKATSUDO」を運営する株式会社リビタと、アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)の共同企画として2023年度に始まり、これまで新潟信州富山結城富士吉田を訪ねてきました。

参加者はアートやまちづくりに携わる横浜市内のプレイヤーたちです。今回は、2026年度からACYが新たに開始した「アーティスト等と地域のコミュニティ拠点をつなぐ2つのプログラム」で協働する施設の運営者も参加しました。

第6回となる今回は、静岡県三島市へ。市民主体の現代アート芸術祭「三島満願芸術祭」、旧幼稚園をリノベーションした交流・共創拠点「みしま未来研究所」、ギャラリーやものづくり体験施設を備えた複合施設「Via701」などを訪ね、文化を通じたまちづくりやコミュニティ活性化の取り組みについて学びました。

水の都・三島へ

三島市は、静岡県東部、富士南麓・箱根西麓、伊豆半島の付け根に位置するまちです。古くから三嶋大社の門前町、東海道の宿場町として栄え、現在も伊豆や富士・箱根方面への玄関口として多くの人が行き交います。もうひとつの大きな特徴は、富士山の伏流水が市内各所で湧き出し、街なかを流れていること。三島は「水の都」としても知られています。

2026年5月29日、使節団メンバー18名が三島駅に集合しました。新横浜駅からは東海道新幹線で最短24分。実は、三島は横浜から思いのほか近いまちです。

今回の旅をコーディネートしてくださったのは、三島で宿泊施設「guest house giwa」などを運営し、三島満願芸術祭実行委員長も務める山森達也さん。集合後、一行は山森さんの案内で、三島駅周辺から街へと歩き出しました。三島を特徴づける水辺やまちなかのスポットを巡りながら、昼食会場であるguest house giwaに向かいます。

川に入りながら説明する山森達也さん(左)

この道中では、今回のレクチャーでも大きなテーマとなる「三島満願芸術祭」の会場となった場所もあわせて見学。芸術祭スタッフの鈴木一さんもこの時間に同行し、作品が置かれた場所や、芸術祭がまちの空間とどのように関わっていたのかを説明してくださいました。レクチャーに先立ち、まず実際の街を歩き、三島の水辺、路地、空き物件、宿泊拠点、芸術祭の会場がどのように重なり合っているのかを体感する時間となりました。

三島満願芸術祭の展示会場の一つ「白滝公園」で展示作品を説明する鈴木一さん(中央)

昼食:いなむら良(guest house giwa)

昼食会場は、山森さんが運営するguest house giwa。10年以上閉まっていた寿司屋を改装した、4つの個室を備えるゲストハウスです。館内には、かつての寿司屋のカウンターを活かしたラウンジがあり、宿泊者だけでなく地域の人ともつながる場として使われています。

今年2026年4月25日、giwaの1階に飲食店「いなむら良」が開業しました。チャーシュー愛あふれる店主が運営するチャーシューの専門店です。開店からまだ1か月ほどのこのお店で、参加者はチャーシュー丼をいただきます。柔らかくジューシーなチャーシューを味わいました。

「いなむら良」のチャーシュー丼

レクチャー:KAWATA BLD 本町

昼食後、一行はレクチャー会場であるKAWATA BLD 本町へ向かいました。

三島の中心市街地の路地裏にあるこの建物は、かつて倉庫として使われていました。現在は三島で様々なまちづくりの取り組みを先導している加和太建設株式会社が所有し、新たな使い方を模索しています。三島満願芸術祭2026では展示会場のひとつとなり、山本篤さんの映像作品『REPLACE -M.WALKERS-』を展示するためにスクリーンが設置されました。会期後もそのスクリーンは残され、現在は会議室として活用されているそうです。私たちもその恩恵を被り、レクチャーの会場として使用できることになりました。

はじめに、今回の訪問にあたり三島の皆さんとの橋渡しをしてくださり、当日のツアーにも同行いただいたアーツカウンシルしずおかの若菜ひとみさん、つづいて株式会社リビタの土山広志さんからご挨拶をいただきました。その後、三島で活動する方々から、それぞれの実践についてお話を伺いました。

NPO法人みしまびと、みしま未来研究所、三島せせらぎ音楽祭:山本希さん

最初に登壇したのは、NPO法人みしまびと理事長の山本希さんです。山本さんからは、みしまびとの活動、みしま未来研究所、そして三島せせらぎ音楽祭についてお話しいただきました。山本さんは三島市役所に勤務する傍ら、無報酬でNPO法人の理事長を務めています。

山本希さん

NPO法人みしまびとは、2014年、地域の人々が自ら映画づくりに関わる「みしまびとプロジェクト」から始まりました。三島市には、以前から市民活動が盛んな土壌がありました。源兵衛川の水辺環境再生で知られるグラウンドワーク三島は、三島における市民主体のまちづくりを象徴する先駆的な取り組みです。こうした積み重ねがある一方で、地域の活動はそれぞれ個別に行われており、活動同士をゆるやかにつなぐ場が求められていたといいます。みしまびとプロジェクトでは、映画制作を通じて、地域の人々が出会い、関わり合う機会が生まれました。ロケ弁の提供や車両の誘導なども含め約4,000人の市民が関わった映画『惑う After the Rain』が2016年に完成しました。

その後、映画制作を通じて生まれた熱量や人のつながりを一過性のものにしないため、新たな活動拠点づくりが進められました。その拠点として2019年に誕生したのが、みしま未来研究所です。みしま未来研究所は、三島市内の旧幼稚園をリノベーションした複合施設です。カフェ&バー、コワーキングスペース、ミーティングスペースなどを備え、三島を訪れた人、移住してきた人、地域で何かを始めたい人が出会う入口として運営されています。

山本さんのお話で印象的だったのは、人とのつながりを通じて拠点を持続させていく考え方です。山本さんはそれを「関わりしろ」という言葉で表現します。みしま未来研究所を訪れる人を単なる「お客さん」として迎えるのではなく、それぞれができる形で関わり、やがて地域の担い手になっていく。そのような関係を育てることが意識されています。山本さんが目指しているのは、自らが前面に立ち続けることではなく、20年後の三島を担う人材を生み出していくことです。NPOのメンバーも、当初は経営者が中心だったそうですが、現在では学生や会社員なども加わり、多様な関わり方が生まれています。

また、山本さんがNPOの取り組みとは別に行っている「三島せせらぎ音楽祭」についても紹介がありました。三島せせらぎ音楽祭は、コロナ禍で活動の場を失った音楽家の支援をきっかけに始まった音楽祭です。市民文化会館での公演だけでなく、まちなかコンサートや三嶋大社での演奏など、音楽を街へ届ける取り組みも行われています。音楽祭の実行委員は高校生からシニアまで幅広い年代が関わっていますが、リーダーを担うのは高校生~20代の若者です。「みしま未来研究所」と「三島せせらぎ音楽祭」は異なる取り組みですが、ここにも地域の未来を担うリーダーを育てるという考え方が表れています。

シタテ、giwa、三島満願芸術祭:山森達也さん

続いて登壇したのは、今回の旅をコーディネートしてくださった山森達也さんです。

山森さんは2019年に東京から三島へ移住し、2021年に株式会社シタテを創業。三島市中心部で、guest house giwa、ワーカーズリビング三島クロケットなどを運営しています。宿泊、仕事、暮らし、滞在をつなぎながら、三島に関わる人を少しずつ増やしていく取り組みです。

昼食会場でもあったgiwaについては、単に泊まるための施設ではなく、地域とつながるための拠点として紹介されました。近隣の店を訪れるきっかけをつくる仕掛けや、ラウンジを活用した小さな交流の場など、訪れた人が三島のまちに一歩踏み出すための工夫が積み重ねられています。

山森さんのお話の中で、繰り返し重要なキーワードとして浮かび上がってきたのが、「関係人口を増やす」という考え方です。三島に来る理由は、人によって異なります。観光で訪れる人、移住を考える人、仕事で滞在する人、アートを見に来る人、地域の人と話してみたい人。その多様な入口を、宿泊施設やコワーキングスペース、シェアハウス、イベント、芸術祭などを通じて少しずつ用意していくことが実践の軸になっています。

山森さんは、三島に人が集まるきっかけをたくさんつくることを、「小さなハッシュタグを集める」という言葉で表現していました。さまざまな関心や偏愛を持った人たちが、それぞれの入口から三島に関わることで、まち全体がより面白くなっていく。そのきっかけの一つとして位置づけられているのが、現代アートです。

2023年、山森さんは三島満願芸術祭を立ち上げます。三島市街地を舞台にした、市民主体の現代アート芸術祭です。空き店舗や公共空間、まちなかの建物を会場とし、日常の中で作品と出会う体験を通じて、まちを訪れるきっかけを増やしていくことを目指しています。芸術祭にはアーツカウンシルしずおかの助成も入っており、地域に根ざした文化芸術の取り組みとして展開されています。

山森さんは、現代アートをきっかけに、これまで三島と縁の薄かった人にも足を運んでもらうこと、そして地元の人にとっても、普段見慣れた街を別の角度から見直す機会をつくることの大切さを語りました。芸術祭は、作品を展示するためだけのイベントではなく、空き物件を開き、路地を歩き、人と人が出会い、次の関係へとつながっていくためのプラットフォームでもあります。

2026年2月には、3回目の開催となる「三島満願芸術祭 2026」が開催されました。今後は新たな試みとして、毎年開催からビエンナーレ形式へ移行し、2027年にはアーティスト・イン・レジデンスを実施する予定となっています。作品を発表する場としてだけでなく、アーティストが地域に滞在し、地域の方々とより深く交流する機会をつくっていきたいという考えが示されました。

山森達也さん

Via701:秋元亮彦さん

最後に、Via701館長の秋元亮彦さんから、Via701の取り組みについてお話を伺いました。

Via701は、三島広小路にある地域密着型の複合施設です。ギャラリー、飲食、ものづくり体験施設などを備え、2023年に平成建設が運営を引き継いでリニューアルオープンしました。1階には、木材の展示や販売、DIYの作業スペース、ものづくりや建築、アートに関する書籍を扱う書店などがあり、2階にはギャラリーがあります。

秋元さんの話で特徴的だったのは、Via701を単なる施設運営としてではなく、三島の文化や技術を次の世代へつなぐ場所として捉えている点でした。平成建設は、大工や職人の育成にも力を入れてきた建設会社です。その背景を活かしながら、Via701では、ものづくりを通じて人、もの、ことがつながる場づくりが進められています。

三島の中心市街地には、古くからの商店や地域の記憶があります。一方で、時代の変化とともに、人の流れや建物の使われ方も変わってきました。Via701は、そうした変化の中で、地域に残された場所や技術を受け継ぎながら、新しい使い方を重ねていく拠点でもあります。

秋元亮彦さん

街歩き:レクチャーで聞いた三島を歩く

レクチャーの後は、再び山森さんの案内で三島の街へ出ました。レクチャーでお話を伺った「みしま未来研究所」や「Via701」を中心に、三島のまちなかに点在するさまざまなスポットをめぐりました。全国でも限られた焼酎特区であることを活かした蒸留所「Whiskey&Co.」、起業支援の拠点である「LtG Startup Studio」、芸術祭の会場にもなった三嶋大社、スタジオやキッチンを備えたレンタルスペース「CoDoUみしま」なども紹介されました。

Whiskey&Co.
LtG Startup Studio
三嶋大社
CoDoUみしま

「みしま未来研究所」では、参加者が自然とベンチに腰を下ろし、しばらくくつろぐ姿が見られました。初めて訪れた人でもすぐに身を置くことができる開かれた雰囲気があり、まちなかの居場所としての魅力が感じられました。

みしま未来研究所

「Via701」では、常駐している職人の方が施設を紹介してくださいました。参加者は、職人の方の普段の活動や、施設の使われ方について熱心に質問していました。ものづくりの現場がまちなかに開かれていることで、訪れた人が作り手の活動に直接触れられる場になっていることが印象的でした。

Via701

これらの場所は、コンパクトな街の中で芸術祭などの取り組みを通じてゆるやかにつながっています。レクチャーで語られた「小さなハッシュタグ」や「関わりしろ」という言葉が、実際の街の風景の中で立ち上がってくるような時間となりました。

懇親会:三島と横浜の交流

街歩きの後は、懇親会へ。三島で活動する皆さんと使節団メンバーが、レクチャーや街歩きを通じて感じたこと、横浜での活動との共通点や違いについて語り合いました。

今回の三島編で見えてきたのは、文化やアートが、特別な場所だけでなく、宿、店、空き物件、水辺、路地といった日常の空間からも生まれていくということです。三島の実践は、横浜で地域とアーティスト、拠点と人をどのようにつないでいくかを考えるうえでも、多くのヒントを与えてくれました。

振り返り:参加者アンケートから

参加者アンケートでは、三島の実践者から直接話を聞き、実際に街を歩きながら拠点を巡ることで、まちづくりや文化活動の現場を立体的に理解できたという声が多く寄せられました。三島の人々が、それぞれの立場からまちに関わり、宿、カフェ、旧幼稚園、空き物件、芸術祭の会場などを通じて、人と人が出会う入口をつくっていることに刺激を受けたという声もありました。

また、現地の方々の丁寧な案内や、レクチャーと街歩きを組み合わせた構成についても好意的な意見が寄せられました。レクチャーで聞いた内容を、その後すぐに実際の場所として確認できたことで、三島の取り組みがより具体的に感じられる時間となりました。

特に印象的だったのは、レクチャーに登壇した3人が、それぞれ異なる場所で異なる活動をしながらも、緩やかに連携し、関係性を育みながら、ビジョンを共有して活動していることです。何か一つの事業を全員で一体的に進めているというよりも、それぞれの活動が自立しながら、必要に応じてつながり合っている。そのあり方に、参加者は大きな刺激を受けていました。使節団の参加者自身も、それぞれ異なる拠点で異なる活動をしている人たちであるからこそ、三島で見た緩やかな連携のあり方は、自分たちの活動を考えるうえでも大きなヒントになったようです。

今回で6回目を迎えた使節団は、各地の実践を視察するだけでなく、その経験を横浜での活動にどう生かしていくかを考える機会にもなっています。地域ごとに課題や条件は異なるため、訪問先の取り組みをそのまま真似ることはできません。それでも、異なる地域の実践に触れることで、横浜の状況に合わせて考えるための視点や手がかりを得ることができます。

これまでの使節団でも、訪問後に現地の人たちと連絡を取り合ったり、協働につながったり、参加者同士で相談や連携が生まれたりしてきました。今回の三島訪問もまた、地域で熱意を持って活動する人々の姿に触れることで、参加者がそれぞれの現場で活動する力を受け取る時間になりました。