現代美術家の渡辺篤氏は本助成での活動継続3年目。1年目の2018年度、2年目の2019年度と引きこもり当事者や社会全体に向けて「アイムヒアプロジェクト」を展開してきました。
「アイムヒアプロジェクト」は、2018年、「ひきこもり」という問題を可視化し、社会全体で考え、共に取り組んでいくための一助となるような活動として渡辺氏がスタートさせたプロジェクトです。
渡辺氏が行う、社会から孤立した人を接続し、その存在をなきものにしない表現活動は、これまで社会に対して閉じられ語られてこなかった存在について語るきっかけとなってきています。
そして、継続3年目で助成最終年である2020年度は、「コロナ禍」及び「アフターコロナ」に対するアートプロジェクトとして『同じ月を見た日(アイムヒアプロジェクト)』を行います。
渡辺氏は、これまで自身の深刻な「ひきこもり」経験を起点として当事者と協同する企画を多数行ってきていましたが、コロナ禍の2020年は「社会全体が孤立の当事者」となってしまったことで、孤立の課題はもはや他人事ではなくなってしまったと感じています。そこで、『同じ月を見た日(アイムヒアプロジェクト)』では、引きこもり当事者だけでなく孤立感を感じる全ての人を対象とし、古来より、ここに居ない人を想う媒介として見つめられいた「月」の観察/ 撮影を介在した参加者同士の遠隔交流によって、困窮する不可視の他者へのまなざしや想像力の誘発を試みます。
このプロジェクトは、月の撮影がスマホで行なえる小型望遠鏡を約30 名に無料で貸出し「ひきこもりを始めとする継続的な孤立の当事者達」と「今日新たに孤立の境遇に立った者達」とが、家に居ながらにして遠隔で「同じ月」を撮影します。その撮影や写真をきっかけに「オンライン交流会」を行ったり、集まった作品の展覧会も行ったりします。
自主隔離を終えた未来に向けて、これまでもこれからも孤立せざるを得ない人々に対し、社会の側が他人事の意識を越えて私たちの課題にまなざしを向ける機会を創出することを目指しています。