2019-03-01 コラム
#トリエンナーレ #美術

ヨコハマトリエンナーレ2020に向けてアートと笑いをテーマにしたイベント開催

2019年2月2日(土)、横浜開港記念会館において「ヨコハマアートラリー アートと笑いの境界線」が開催された。横浜トリエンナーレ組織委員会が実施した三部構成のイベントで、倉本美津留さんが主宰と進行を務め、芸人のジャルジャル、しりあがり寿さん、会田誠さん、千原徹也さんらが出演し、「アートと笑いの境界線はどこにある?」を探った。その様子をお伝えしよう。

 

横浜市で3年に一度開催する現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ」は、次回の開催が来年に迫る。アーティスティック・ディレクターにはインド・ニューデリー生まれの3名からなるアーティスト集団、ラクス・メディア・コレクティヴ[Raqs Media Collective]が就任した。そんな中、多くの人にもっと現代アートを身近に感じてほしいと「ヨコハマアートラリー」と題するイベントが開かれた。テーマは「アートと笑いの境界線はどこにある?」。

三部にわたりまとめ役を務めたのはテレビのバラエティ番組の放送作家として活躍する倉本美津留さん。「笑いが生まれる場、笑いとアートが交わる場、アートが生まれる場の三つの時間を用意しました。果たして境界線の在処はつかめるのでしょうか?それとも、そもそも境界線なんて存在しないのでしょうか?」と語る。

[1部]は芸人のジャルジャル(後藤淳平・福徳秀介)がパフォーマーとして登場、「超コント」を繰り広げた。会場にカードが配られ「前の言葉」と「後ろの言葉」を募集、2つの言葉をそれぞれの箱の中から引いてその場でできた言葉をお題に、ぶっつけ本番で新作コントを披露した。実はこの企画、1920年代ころのシュールレアリストたちの遊び「優美な屍骸」をヒントに生まれたもの。シュールレアリスムは「超現実主義」なので、台本も稽古も打ち合わせもないコントということから「超コント」というわけだ。

 

2つの言葉の偶然の組み合わせからできたお題は、「野生の駅」「ほうぼうで骨折」「未知なる子煩悩」「ネイティブな牛若丸」「3・2・1、5人目」といったもの。「笑いが生まれる場」を観客が体感した。

 

「ネイティブな牛若丸」のお題をコントするジャルジャル

 

[2部]はトーク「アートと笑いの境界線」。
こたつがしつらえられた舞台上に現代アートの若手作家4人を次々に招き入れて、ジャルジャルの2人、デザイナーの千原徹也さん、倉本美津留さんが、あれこれ聞いていく。作品を「笑いとボケ」と捉えて、ときに作品に「ツッコミ」を入れながら、アーティストの制作に向かう心情を読み解いた。

 

AKI INOMATAさんの「生きもの」との共作に驚いたジャルジャルから「作家・ミノムシのアートやん」とツッコミが入った。

 

青田真也さんの何でも削る作品づくりには、「何が目的なん?」「削るのどこでやめるのかがポイントなんやね」と新たな楽しみ方を発見。

 

 

田中偉一郎さんのナンセンスなギャグ感覚満載の作品に、アートと笑いはついに合体か?との論議が。

 

台湾人アーティストLEE KAN KYOさんの日本のスーパーのチラシ、週刊誌、ポイントカードなどに向けた熱い目線に驚く。

 

 

しかつめらしく語るのはさて置いて、現代アートをとことんおもしろがることで、アーティストという人間の存在に興味が湧いてきたのではないだろうか。

[3部]は「しゃべつくり」と題しての、しりあがり寿(漫画家)さん、会田誠(美術家)さんが作業着姿で登壇し、舞台上で作品を描くという趣向。会場から募った言葉カードを組み合わせてできた偶然の画題から発想して、15分ずつの時間制限で作品を描いていった。2人はピンマイクを付けられ、独り言やつぶやきも会場に聞かれてしまう。偶然の言葉の組み合わせの「滑稽なイメージ」や「笑い」から作品はどう生まれるのか、会場はしばしば笑いにつつまれながら2人の姿を見守った。

 

独り言をつぶやきながらキャンバスに向かう会田誠さん

筆運びの早いしりあがり寿さん

 

3回のセッションが行われたが、異変が起きたのは第3回戦での会田さん。「お題」をながめ腕組みしたり歩き回りながら「うーん」と唸り声を出すばかりで15分が過ぎてしまった。ついに「降参します。持ち帰らせてください。24時間以内に描いてツイッターにあげます」という事態となった。「笑い」をテーマにした遊びの場かと思われたが、期せずしてアートを生み出すのに苦悩するアーティストの姿を垣間見ることになった。

 

『ムンク似のささやき』しりあがり寿

『ムンク似のつぶやき』会田誠

お題の「ささやき」を「つぶやき」と勘違いした会田さんの作品

『見たことのない絶望』会田誠

しりあがり寿

 

『しょっぱいセコンド』しりあがり寿

 

『全米が泣いた国指定文化財』しりあがり寿

 

約束通り翌日、会田さんのツイッターには『吐き気がする企業戦略』のお題でダンボールに描いた作品が発表された。「描きました。ああ、壇上で描きたかった」とのコメントが添えられた。
「笑い」を斬り口としながら現代アートの自由な楽しみ方を探るユニークなイベントとなった。

取材・文:猪上杉子
写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会


【今後の横浜トリエンナーレ関連のイベント情報】

◆横浜トリエンナーレサポーターズサロン・エクストラ
行けばわかるさ、芸術祭。
Vol.2 札幌国際芸術祭2020を語る
登壇者:天野太郎(札幌国際芸術祭2020統括ディレクター)

日 時:2019年3月13日(水)19:00~21:00(受付|18:30~)
会 場:YCC ヨコハマ創造都市センター3階イベントスペース
参加費:無料
定 員:100名
詳細・申込:こちら
主催:横浜トリエンナーレサポーター事務局、横浜トリエンナーレ組織委員会

問い合わせ:
横浜トリエンナーレサポーター事務局(10時~18時、不定休)
TEL:045-228-7816 FAX:045-325-7222
E-mail:info@yokotorisup.com

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