2021-09-24 コラム
#生活・地域 #まちづくり #美術 #黄金町エリアマネジメントセンター

多様なアーティストの作品に連続性を持たせる 「黄金町バザール2021」が開幕

今年で14回目を数えるアートフェスティバル「黄金町バザール」。黄金町に長期滞在するアーティストに加え、公募と海外連携機関などの推薦で選ばれた国内外のアーティスト計41組が、京急線「日ノ出町駅」〜「黄金町駅」エリアのまちを舞台に作品展示を行う。10月1日の開幕を前に、テーマや見どころについてディレクターの山野真悟さんとキュレーターの小林麻衣子さん、参加アーティストの志村茉那美さんに伺った。

(左から)キュレーターの小林麻衣子さん、参加アーティストの志村茉那美さん、ディレクターの山野真悟さん

“お隣さん”を意識する

今回のテーマ「サイドバイサイドの作り方」は、1927年に書かれたアメリカのスタンダード曲『Side by Side』に由来している。

「これは、社会状況が良くない時に『こんな大変な時代だけど、皆でいっしょにがんばっていきましょう』という意味を込めて作られた曲。そのメッセージをあまり深刻にしすぎず、軽く伝えたいと考えました」(山野さん)

さらに「サイドバイサイド」という言葉には、黄金町の高架下周辺にひしめき合う細い建物で隣り合って展示される作品が「互いに干渉する」という意味も込められている。

「一人ひとりきっちりと区切る展覧会のつくり方ではなく、いろんな作品が同時に視界に入ってくるようなシチュエーションや、『自分のやっていることのそばには隣の人がいるんだ』ということを意識させるテーマにしました」と山野さんは語る。

「AIR(アーティスト・イン・レジデンス)の人たちの中にはテーマを日常の制作と結びつけている人が何人かいます。自分のアトリエを使って発表をする人も増えていて、隣り合っているアーティストとの関係性を作品に組み込んで見せようとしています」(小林さん)

コロナ禍に呼応する作品たち

昨年はプランを途中で切り換えざるを得ないアーティストが多かった黄金町バザール。今年は始めから移動ができない状況を見込んで郵送や配達のシステム自体を作品に組み込んだり、遠くの人にメッセージを届けるということを形にしたりと、現地に来られないからこそのユニーク発想も生まれたという。

タイから推薦で参加するミティ・ルアンクリタヤーさんは、タイのこれから開発が行われるであろう古い労働者街をリサーチしてつくった映像を、黄金町の建物のウインドウ計9カ所に分散させて展示する。映し出されるのは、よく見ると海外の風景だと伝わるような「行ったことはないけれど確かにある国の生活の風景」だ。

ミティ・ルアンクリタヤー《Room no.2, Untitled (#01)》2020年

2019年から黄金町AIRに参加している肥沼守さんは、イタリア旅行中に感銘を受けたフレスコ画の技法で物語性のある幻想的な世界観を表現している作家だ。今回は子犬と雲のモチーフを大岡川上に展示し、会期中は「川に子犬がいっぱいいる状態」になるそうだ。

肥沼守《雲をはこぶ日》2021年

公募で選ばれたゲストアーティストの山本千愛さんは、2016年から「12フィートの木材を持って歩く」というプロジェクトを開始。群馬から愛知、愛知から福岡を目指して徒歩で移動した記録映像と日記などで構成したインスタレーション作品《次にくる日のための-(One for coming days)》は、「群馬青年ビエンナーレ2021」大賞を受賞した。

山本千愛《次にくる日のための-(One for coming days)》2021 年 撮影:水津拓海

山本さんは黄金町でも毎日駅の周りを歩き回るというプランを立てていたが、先日思いがけず交通事故に遭い負傷してしまったという。

「自身の身体が作品の大きな要素である作家が、体の自由があまり効かない状態でどうやって自分の身体や作品性と向き合うかを考えながら制作しています。身体が制限された不自由さが現代の社会状況ともつながるような作品になっていると思います」(小林さん)

踊る猫の伝説から考える「別方向からの視点」

初参加の公募アーティスト・志村茉那美さんは、横浜市営地下鉄「踊場駅」(泉区)の「夜な夜な踊る猫」の伝説を題材にした映像作品を発表する。駅名の由来になったこの伝説は、「醤油屋の飼い猫が、主人の手ぬぐいを盗んで毎晩丘でほかの猫たちに踊りを教えていた」というものだ。

「醤油屋のなかでは泥棒扱いだった猫が、近所の猫たちのあいだでは踊りの師匠として輝いていた。一面から見ると悪とされているものが別の方向から見ると実はそうでもないかもしれない、というところを物語の軸にして、オリジナルの要素も取り入れた作品です」と志村さんは話す。

物事を一つの側面から判断してしまうことへの問題意識は、SNS上と対面で話をするときの二面性の扱われ方などからきている。「たとえば対面では優しい人がSNS上ではすごく攻撃的な態度をとっているときに、SNSのほうが本物の顔のように扱われているケースをよく見ます。でも、表面上優しさを取り繕ってしまう部分もその人の性格の一部で、それも含めて全体で見ると、その人の捉え方がまた変わってくると思うんです」

これまでの作品でも、志村さんは「一歩引いて俯瞰して見ること」で浮かび上がる視点を主軸にしている。2020年の作品《見えない川を辿る / Touch the invisible river》では、中区にかつて流れていた千代崎川の下流地域で関東大震災時に起きた火災を、土砂崩れでせき止められてしまった川の水の代わりに崩壊した麒麟麦酒の工場から流れ込んだビールが止めたという逸話を題材にした。一見消火には適さないように思える嗜好品が人々を救ったというストーリーが、「“無意味なもの”がもたらす多様性」について考えさせたのだという。

《見えない川を辿る》2020年

参加方法もモチベーションもさまざまなアーティストに、まずは“隣”を意識してもらいながら、地域の景観に連続性を持たせることを試みる今回の展覧会。昨年とはまた違った形で現代社会を反映した本展をぜひ体験してほしい。

文:齊藤真菜
写真:大野隆介

黄金町バザール2021―サイドバイサイドの作り方
会期: 2021年10月1日(金)〜10月31日(日)
会場:京急線日ノ出町駅・黄金町駅間の高架下スタジオ/周辺のスタジオ/地域商店/野外空地ほか
住所:横浜市中区黄金町1-4先 高架下スタジオSite-B(黄金町エリアマネジメントセンター)
開館時間:11:00-19:00
休場日:毎週月曜
料金:<一般> 1,000円
<高校生以下> 無料
※障害者手帳をお持ちの方と同伴者1名は無料
※まちのお店で使える300円OFFクーポンつき(クーポン対応店はバザールパスで確認)
URL:https://koganecho.net/koganecho-bazaar-2021/


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