2022-04-01 コラム
#パフォーミングアーツ #美術 #象の鼻テラス #ACY

コロナ禍の日常における公共空間活用の可能性を考える――「フューチャースケープ・サミット 2021」レポート

2009年の開館以来、公共空間の活用に継続的に取り組んできた象の鼻テラス。そうしたプロジェクトの数々を統合した「FUTURESCAPE PROJECT 2021」では、コロナ禍の日常を創造的に生きるために設定した12カ条に基づいてさまざまなアートプログラムが展開された。2021年10月24日には、その成果を振り返るとともにウィズ&ポストコロナ時代の公共空間活用のあり方を国際的な視点も交えながら検討する「フューチャースケープ・サミット 2021」を開催。その様子をレポートする。

Photo: Hajime Kato

日常を豊かにするアート作品

第1部では、コンセプトや今年の参加プログラムについて、象の鼻テラス企画担当ディレクターの守屋慎一郎さんおよび参加アーティストからプレゼンがあった。

今年のテーマ「ニュー(ノーマル+クリエイティブ)ライフ」について守屋さんは、「コロナとある意味共存しながら生きていく時に、ソーシャルディスタンスやリモートといった距離をとるということだけでなく、もう少し『ニューノーマル』ならではの公共空間の使い方というものがあり得るのではないかということで設定しました」と話す。

高橋匡太さん《ハローサンリク ー東日本大震災から10年「ひかりの実」特別プログラムー》 Photo: Mito Murakami

招待作家は、笑顔の灯る夜景を東日本大震災の被災地と交流しながら作り続けてきた高橋匡太さん、台所などの拡張空間として屋台をとらえて4台の屋台をつくった中山晴奈さん、知らない人同士のコミュニケーションを生み出す作品を制作した金子未弥さん、さまざまな「スイッチ」を押すことで目の前で始まる演劇やそのスイッチを考えるワークショップを行ったスイッチ総研、参加者の心拍と場所を水上タクシーの照明の色に反映させた藤村憲之さん、小学生の子ども取材班が働く大人に取材体験をする機会をつくっているYOKAROの6組。

中山晴奈さん《拡張ニュー屋台》 Photo: Hajime Kato

「当初から、大規模な祝祭を作ろうというようなイメージではなく、どちらかというと私たちの日常をいかに豊かに、いかに楽しくしていくかというような指向性」(守屋さん)というように、日常のコミュニケーションを振り返り、より豊かなものにしようと考えさせるラインナップとなった。

屋内から屋外活動へ

第2部では、海外や官民連携、SDGsの視点からウィズ&ポストコロナの公共空間について事例紹介が行われ、質問や意見が交わされた。

昨年に続いて登壇したニューヨーク市公園局の都市計画とGIS(まちづくりや環境計画に必要な地理情報システム)スペシャリストの島田智里さんは、ニューヨークで室内活動の禁止に伴って始まった屋外活動や、それを可能にする仕組み「オープンストリーツプログラム」について紹介。オープンストリーツプログラムは、道路空間を開放し歩行者天国にするもので、それが発展し、道路や歩道で飲食サービスができる「オープンレストラン」、小売業が営業できる「オープンストアフロント」、音楽や芸術活動ができる「オープンカルチャー」も生まれたそうだ。それぞれ規定やルールがあるが、基本は無料で自己申請型だという。

行政が仕組みをつくれば、民間主導で多様な取り組みが生まれる

続いて横浜市立大学客員教授、一般財団法人公園財団常務理事の町田誠さんからは、道路・河川・公園などの種別ごとの公共空間を活用するための日本のさまざまな法制度の紹介があった。2011年に都市再生特別措置法の改正を機にできるようになったのが、歩道を商業的に使うこと。札幌の大通地区では、ポップアップショップや展示などに使えるコンテナとテラスのスペース「大通すわろうテラス」が設置された。2019年には道路法本体が改正されて「ほこみち(歩行者利便増進道路)」という制度ができ、全国各地にこうした取り組みが広がった。

河川では、敷地の上にタリーズコーヒーなどの商業施設やホテルのテラス席が設置されるように。公園でも2017年に公募設置管理制度(Park-PFI)ができ、公園内にカフェや売店など商業的な施設を設置するための仕組みができた。名古屋市の久屋大通公園では、緑が生い茂りすぎて治安が悪くなっているのをどうにかしたいと、民間の資金力で40以上の店舗が入る商業施設を作った。また広島県福山市では、図書館の前の公園に地元の人たちのグループが軽い木の建物を作ったことで、すぐにヨガなどさまざまなアクティビティが行われるようになったという。

町田さんは「役所と利用者が対峙してしまうと何も進められないが、民間がやるとずいぶん変わってくる。もっと多様な表現を利用者も管理する人たちも一緒になって楽しむという時代になるのかなと思います」と話した。

生活の質を上げていく時代に

ヨコハマSDGsデザインセンター長の信時正人さんは、国内と横浜のSDGsに関する取り組みの現況およびセンターの事業について紹介。横浜は2018年に「SDGs未来都市」に選定された際、唯一中間支援組織をつくることを提案に盛り込んだ。その組織がヨコハマSDGsデザインセンターで、みなとみらいの海で潜水士と小学校を生中継でつなぐ「海中教室」や、SDGsをテーマに小学生に絵日記を書いてもらう横浜資源リサイクル事業協同組合と共催の「環境絵日記子どもサミット」などさまざまな子ども向けプログラムを実施している。

また、中小企業からプラスチックごみ削減についてのアイデアを募集し選定、後押しする「アイデア博」や、SDGsにふさわしい事業提案に対して最大200万円の補助金を支給する「横浜市 SDGs biz サポート補助金」、事業者の認証制度「Y-SDGs」など企業向けの取り組みについても説明があった。

「脱炭素化を目指しながら生活の質も上げていくという時代に入り、アーバンデザイナーやアーバニストといった人たちが特にこれから必要になる。これまでの延長線上にない社会をつくっていくことに力を注ぎたい」(信時さん)

公共空間を活用しやすい仕組み

終盤では、「多くの方々が公共空間に来て楽しんでもらうための安全性や快適性といった基盤をつくることはできても、そのアクティビティは決して役所ができるわけではない。その場所が本当に豊かになるためには、『サービスする側とされる側』という関係ではなく都市の豊かさを増長させていく方向にぜひ活躍してもらいたい」と町田さんからアーティストたちに激励の場面も。これを受け、アーテイストから具体的に公的な規制・制約をクリアするための質問も投げかけられた。

スイッチ総研の光瀬指絵さんはその中で、私有地である軒下などであれば公共空間のような制約や申請の必要がなくなるため、私有地を探して選ぶことがあると言及。町田さんは「確かに申請しないで実施することができればそのほうが実現可能性が高いですが、私有地に行かれてしまうと公共空間の社会的な効用がどんどん下がっていく。街の生活を豊かにし得る空間がどんどん使われる方向に持って行くためにはプレッシャーをかけ続けてもらうことが必要」と回答した。

髙橋匡太さんからは、「公共空間の活用を進めるにあたって一番の妨げになっているものは何か」と質問もあった。町田さんはそれに対し、「社会全体がもっと寛容になることが必要」と回答。トラブル・クレームを避けるための対応が多くなる行政と、市民の不寛容さ双方が根本的な問題だとした。

島田さんは、「アーティストと行政でやはりそれぞれのアジェンダがある中で、同じ言語を話していないことがおそらく問題」と指摘。ニューヨークには行政と市民の間に入って翻訳する役割を持つ専門家がいることで話が進んでいるという。

締めくくりでは、横浜市文化観光局の神部浩局長が「象の鼻テラスの皆さんに期待している役割がそういうことだと思います。(市民の)要求やプレッシャーを、この施設を持っている港湾局や国交省にうまく翻訳することをぜひ期待できれば」とコメント。今後への希望と共にサミットを終えた。

文:齊藤真菜


【インフォメーション】

フューチャースケープ・サミット 2021 / FUTURESCAPE SUMMIT 2021
日程:2021年10月24日(日)
会場:象の鼻テラス/オンライン
登壇者:町田誠(横浜市立大学客員教授、一般財団法人公園財団常務理事)、島田智里(ニューヨーク市公園局都市計画&GISスペシャリスト)、信時正人(ヨコハマSDGsデザインセンター長)、神部浩(横浜市文化観光局長)、岡田勉(象の鼻テラスアートディレクター)
FUTURESCAPE PROJECT 2021 参加アーティスト:高橋匡太金子未弥スイッチ総研、中山晴奈、藤村憲之YOKAROほか
https://fsp.zounohana.jp/2021/programs/6/

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