2023-03-24 コラム
#郊外 #環境・資源 #農業 #生活・地域 #食文化 #まちづくり #デザイン #建築

横浜・中山に根付く草の根コミュニティ「753village」

横浜市緑区中山の住宅街に、コワーキングオフィスやカフェ、ギャラリー、教室、多世代交流サロンなどが点在する小さなエリアがある。名付けて「753village(ななごーさんヴィレッジ)」。草の根的に広がったというこのコミュニティについて、プロジェクトメンバーの大谷浩之介さんと関口春江さんご夫妻、齋藤好貴さんに伺った。

 

薪風呂もある、まちのフロント「Co-coya」

 

お話を伺った場所は、753villageの玄関口として2022年2月にリニューアルオープンした「Co-coya」。住宅街の中でも人通りのある道に面した、築60年の民家を改修したコミュニティスペースだ。

「まちのシンボルにしたかった」という草屋根が印象的なCo-coya。畜断熱の効果もある

 

建築家の関口春江さんが設計・運営を手がけるCo-coyaは、1階が陶芸家や染織家、画家、パティシエが入居するシェアアトリエ、2階がコワーキングオフィスとなっている。この地域の多くの家が備えているという井戸を復旧し、薪ストーブと薪風呂も設置。災害時には近所の人もトイレやお湯が使える、災害拠点としての機能も持たせた。

入ってすぐが広い土間スペース、横に普段はガスが使える薪風呂、奥にシェアアトリエがある

 

土壁や漆喰壁、三和土(たたき)土間といった日本の伝統技術を採用し、開放的でモダンな印象ながら周囲に溶け込んでいる。工事には地域からの参加者も募集し、左官職人から基礎技術を教わりながら作業した。

関口:「震災時のがれき処理について知った時、今建てている建物ってゴミになるんだなということが一番印象的でした。それから『ゴミにならない建築』というものを意識しだして、もともと日本の伝統建築で使われている自然素材に興味を持ったんです」

住宅や庭のデザインを手がける関口春江さんと、プロジェクトメンバーの大谷浩之介さん

 

改修の費用は持ち出しに加えてクラウドファンディングを活用したほか、大家である齋藤好貴さんも巻き込んで横浜市の「ヨコハマ市民まち普請事業」に応募し調達した。

関口:「シェアアトリエとオフィスまでは先に改修して運営していて、ここを地域に開く場所にしようと決めたタイミングで、まち普請コンテストを知りました。自費で進めようと思っていましたが、私たちにぴったりの制度だと思い、齋藤さんに声をかけました。齋藤さんはこれまでの私たちの活動も中心になって一緒にやっていたので、齋藤さんにも表に出ていただくことで、こういう地主さんが増えたらいいなと思ったんです」

大谷:「ほかの施設が少し奥まったところに点在しているので、それぞれの場所が何をやっているか分かりにくいよねといった話を地域の方からいただいていました。それもふまえて、この家が空いた時に、各施設を面でつなぐようなイメージで、インフォメーションセンターのようにしようと考えたんです。そこに災害拠点の機能も持たせることで、いざという時に『あそこがあってよかった』と思ってもらえるといいなと。ふらっと来た方に『菌カフェに行こうと思ってるんです』と聞かれることもよくありますね」

この日は軒先でコーヒーや野菜、アート作品を販売。もともとは民家のため塀があり、外から見えにくい場所だった

 

原点は地主さんの思い

 

このエリアで家を「ひらく」試みは、高台の上にある「なごみ邸」から始まった。オーナーの齋藤さんは、「28年ほど前に空き家になった時、更地にして収益物件を建てるのもいいけれど、これから空き家がどんどん増えていってまちの元気がなくなってくるだろうし、せっかくなので地域に根ざした魅力的なモノの発信基地のような場所にできたらいいなと単純に思ったんです」と語る。

 

753プロジェクトに欠かせない地主の齋藤好貴さん

 

齋藤:「実験的ではあったのでドキドキしましたが、俳句やお茶の会、演奏会などに利用してもらっていろんな人が集まることによって、情報がいろいろ入ってくるようになり、そこでまた新しい発想が生まれることもあります」

当初は区外などからそうした催しに訪れる人が多かったため、地元の人にどんな施設か知ってもらおうと始めたのが、桜の時期の観桜会だ。10日〜長くて2週間、朝9時くらいから夜8時頃まで施設を公開し、夜にはライトアップしている。

解体された戸塚の農家を移築して作ったという洋間。7本の桜に囲まれた広い庭を臨む

 

和室には炉も

 

齋藤:「個人宅に予約制とはいえ不特定多数の方が出入りするので、やっぱり心配するわけですよね。周囲の人に来てもらって、こんなところですよとお知らせすることで、口コミで不安を和らげることができればと思いました。時間はかかりますが、施設として、地域に対してのあり方としてそういう手法をとり、だんだん浸透してきました。

おかげさまで25年地道にやってきて、予想通り空き家が増えましたが、関口さんや大谷さんのように新しく地域に関わる方も来てくれるようになりました」

キッチンやピアノも備えた立派な日本家屋で、発表会や個展などさまざまな目的に利用。庭を挟んだ隣の教室専用のレンタルスペース「楽し舎」では、ヨガやパン、陶芸など週に12教室が開かれている

 

カフェからマルシェ、地域活性へ

 

関口さんと大谷さんがこのまちに関わるようになったのは10年前。現在は「菌カフェ753」として営業するカフェのスタートがきっかけだった。

菌カフェ753を運営するシェフの辻一毅さんは、都内のレストラン「Tsuji-que」を営業しながら、中山の近く、十日市場の自然農法の菜園に援農に来ていた。通うなら住んでみようと、引っ越した中山の家の大家が齋藤さんだった。裏手にカフェになる物件があると齋藤さんから聞いた辻さんに誘われ、援農仲間だった関口さんや大谷さんも物件を見に来た。

なごみ邸のある高台の途中にある菌カフェ753

 

関口:「佇まいに一目惚れして、ここにどうにか関われないかなと思いました。そこで、自然農法や私たちがライフワークとしてやっていた醤油づくりなど、いろんな活動を発信する拠点にしたいというカフェのコンセプトを書いて齋藤さんに提案したんです。

空き家問題がちょうどよく取り沙汰されている時で、どんどん家が余るのに新しい家を建てるということに疑問を持っていました。ハコを作るよりはそれを生かすこと、ソフトのほうが面白い、価値があるんじゃないかなと考えていた時期でした」

アンティーク家具や発酵食品が並ぶ落ち着いた店内。今は辻さんが菌カフェ753をマネジメントし、カフェのファンだった20人ほどのスタッフが日替わりで店を回すスタイルとなっているそう

 

辻さんと関口さん、大谷さんを含むチームで始めたカフェ。そこから月1回のマルシェが生まれ、少しずつ規模を広げていった。

大谷:「カフェの中で始めた小さなマルシェでしたが、そこから地域を盛り上げるものにしよう、地域を使った活動にしようというような方向が出てきたんです」

 

柔軟に変化していくコミュニティの中で暮らす

 

その後、マルシェの出店者がもっと定期的に出店できたり、気軽に小商いにチャレンジできたりする場所を作ろうと2016年にできたのが「季楽荘」。庭付きの立派な平屋で週1の「まがりカフェ」が営業するほか、セラピーや教室用に抑えた料金設定で部屋を貸し出している。

立派な庭と縁側のある「季楽荘」

 

季楽荘の敷地内のガレージを改装し、「Gallery N.」もできた。白い壁のスペースで、個展やグループ展を開催することができる。なごみ邸・楽し舎と合わせた4施設は、齋藤さんがご夫妻で手分けして運営している。

「Gallery N.」で展覧会を開き、裏手からつながる季楽荘の一室を応接間にするといった使い方も

 

こうしてゆるやかにつながる拠点のコミュニティができあがっていき、齋藤さんと関口さん、大谷さん、辻さんらは、すっかりまちのことを共に考える協働関係に。

齋藤:「私自身で全部なんてできないんですよ。一つの組織や一人がプロデュースしても、結局その色からあまり出られないと思うんです。発想に限りがあるので。いろんな人との出会いをうまく組み合わせることによって、魅力的な景色になって、まちの活性化につながる、それが一番大事だと思っています。

この方たちだったら、地域の中で自分たちのこれからやりたいことをどんどん自分たちのスタンスで広げていってくれるだろうとすごく感じられたので、私は単純に場所を貸すことで、地域がより充実していく、それでまた人が引き寄せられる、そういう相乗効果が出てきていますね」

 

「753village」という見せ方を考え始めたきっかけは、エリア内の建売住宅3棟を齋藤さんが取得したことだった。相続などの関係で一度手放さざるを得なかった土地だが、住宅が建てられたあと、やはりこのエリアへの思いが強い齋藤さんが、なごみ邸や菌カフェ753のある通りに面する側だけ買い戻したのだそうだ。

大谷:「賃貸物件として貸し出す上で、『コミュニティの中で暮らすこと』という打ち出し方を考えているうちに、『ヴィレッジ』というコンセプトが立ち上がりました。最初からプロジェクトのがっちりしたイメージがあったわけではなくて、関わる人たちの要望などを聞きながら作っていき、活用の仕方も流動的に変化してきました。街の変化に合わせて今後も変化していけばいいかなと思っています」

 

テラスや共有の庭のある住宅エリアは「なごみヒルズ」と名付けた

 

建売住宅のうち1棟は、多世代交流カフェ「レモンの庭」として2018年から一般社団法人フラットガーデンが運用することに。ニットカフェや健康マージャン、「推し活DAY」などの会を設け、乳幼児連れの子育て世代や小中学生、シニアまでさまざまな人の居場所となっている。

この日の「レモンの庭」はニットカフェが開かれており、お手製のセーターを着た人も。キッチンからは「スパイス一汁一菜」が仕込むカレーのいい匂い。2階には麻雀卓もある

 

入居者を募集した住居は大変人気となり、待ちが出るほどだそう。

「お客さんで来たり、スタッフでちょっと手伝ったり、このまちとのいろんな関わりを自分のライフスタイルの中に自然に取り込んでくださった方が、今度は住みたいねという意識になって来てくださっているんです」と齋藤さん。わかりやすいキャッチコピーで固定のイメージを作るのではなく、地道に場所・活動をひらいていくことで理解者や協力者を増やしていくなごみ邸のスタイルが753villageという形につながり、新たなステージを迎えている。

2023年3月からは、コロナでしばらく休止していたマルシェをリニューアルしCo-coya隣の広場で再開する

 

文:齊藤真菜
撮影:大野隆介

 

【INFORMATION】

753village
https://nakayama753.com/

Cocoya
横浜市緑区中山町86
JR横浜線・中山駅 南口より徒歩7分
linktr.ee/cocoya_nakayama

なごみ邸
横浜市緑区中山5-1-1
https://www.nagomitei.jp/home/

菌カフェ753
横浜市緑区中山5-3-10
045-935-7531

多世代交流カフェ「レモンの庭」
横浜市緑区中山5-4-7
https://www.flatgarden-yokohama.com

杜のぴか市
https://www.instagram.com/mori_no_picaichi/

 

【プロフィール(五十音順)

大谷 浩之介
2013年に「753プロジェクト」を立ち上げ、2014年より横浜市緑区中山在住。東京の社会教育の現場で地域住民のコミュニティ形成支援に携わったのち、横浜で多様な主体による共創事業に携わる。自宅をシェアハウスとしながら、地域の空き家活用を進めてきた。楽しんで暮らしをつくることに邁進中。2009年より取り組む手づくり醤油の活動では、搾り師を担う。

齋藤 好貴
横浜市中山の建久2年(1191年)から続く旧家に生まれる。1990年実家が経営している株式会社八廣に入社、主に不動産管理の業務に携わる。1998年空き家を活用し、レンタルスペース「なごみ邸」を開設。多様な企画催しや独自の地域コミュニティの核心地となるべく業務を続けている。
新たな空き家を活用し趣旨考察を共感する仲間たちを中心に魅力的なコミュニティのある街創りに日々勤しむ。

関口 春江
本業は住宅や庭の設計デザイン。
お醤油づくりと緑区中山への移住をきっかけに「自分たちの暮らしは自分たちでつくる」をコンセプトに、地主さんと共にコミュニティを醸造中。活動エリア内にある空き家のポジティブな転換が次々はじまり、2022年に各拠点をつなぐインフォメーションとして環境共生型リノベーションで空き家を再生。豊かな暮らしとは?を日々模索し続けている。

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