スタートアップ企業から「餃子部」や「レコード部」などの「大人の部活動」まで、さまざまな人たちの活動の受け皿となってきたみなとみらいのシェアスペース「BUKATSUDO」。利用者だけでなく、そのつなぎ役となるスタッフも同じ温度感で接してほしいと、アーティストとして活動している人や、自ら店舗を経営している人などを積極的に採用している。
そんなスタッフの一員で「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018」共催の公演を控えたasamicroこと松井麻実さん、「黄金町バザール2018 −フライング・スーパーマーケット」特別プログラムのグループ展に参加する吉田ゆうさん、そしてBUKATSUDOマネージャーの川島史さんに、働き方と制作活動について聞いた。
吉田ゆうさん-「制作と生活の環境は切り離せない」
県内の美術大学を卒業後も、大学の研究室に勤めていた吉田さん。大学周辺で活動することが多かったが、知り合いづてに当時あった馬車道のクリエイター拠点「宇徳ビル ヨンカイ」にアトリエを持つことになり、横浜で制作活動を始めた。
短期集中の大学の仕事とBUKATSUDOの仕事に加え、美術館で版画のインストラクターを務める吉田さんは、ヨンカイの解散後、黄金町のアーティスト・イン・レジデンスに参加している。この間に、BUKATSUDO内に設置されたギャラリーと、BUKATSUDOを運営するリビタのホテル「LYURO 東京清澄 -THE SHARE HOTELS-」での個展が実現した。
「どんな人が地域で生活しているのかわかったほうが自分の制作にもプラスになるし、アートに限らず、BUKATSUDOでは人との交流から得られる情報が多いので、いろんな活動の仕方があるんだということがわかって、勉強になっています。展示の機会も、ホワイトキューブではないユニークな空間、普段自分がなかなか展示しないような空間で展示できるというのが面白くて。」(吉田さん)
「スタッフの中にこういう人がいますよという情報交換は施設同士でちょくちょく行っています。複数の施設を運営しているという強みを活かすためにも、横の連携をしていきたいなと。ホテルなどは24時間勤務の社員がどうしても多くなってしまうので、こうした自分の活動をしている人を積極的に雇うというやり方をしているところはなかなか少ないですね。」(川島さん)
「サメ」をモチーフに制作する吉田さん。題材にし始めた当初「サメ」は“憧れの対象”だったが、現在は“日常を非日常に変える象徴”になっているという。
「制作と生活は一緒じゃないけれど、制作の環境と生活の環境は切り離せない。最近は、“怖い”といったサメの象徴的なイメージを使って、日常風景にサメを出没させることを試みています。非日常的な景色に変えることで、自分たちがいる生活環境について考えられたらなと思っています。」(吉田さん)
松井麻実さん-「生活の中の好みから出る問いかけを踊りに」
約10年間ストリートダンスの講師を務めながら自身の制作活動を続けてきた松井さんは、「踊りを武器ではなく、友達のようなポジションにしたい」という意思を持って転職した。
「ダンスをしている自分しか知らなかったので、それがなくなったときどうなるんだろう、ダンスが糧でなく本当に好きになれたとき、どんな踊りができるだろうというのに興味があったんです。」(松井さん)
「ダンスのイベントに携わりたい」と明確に伝えた上でBUKATSUDOに入ったその年に、「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018」の企画を振られた松井さん。さっそく企画書を書き、川島さんと修正を重ね、美術家の千田泰広さんと音楽家の種子田郷さんの協力も取り付けた。
最初こそ「変わるため」に制作していたが、打ち合わせ後に種子田さんから出た言葉は、「あなたのこれまでの踊りをコンテンポラリー界に持ってくればいいんですよ」だったそうだ。
「自分を変えたいと思って始めた今回の創作でしたが、これまでの踊りにも自信がないわけではありませんでした。種子田さんからこれまでの自分を持ってきなさいと言われたのは、昔の自分に向き合うことになるので苦しみましたけど、気持ちとしてはありがたかったです。この公演は、ぜんぶ私自身だけど、もう一度過去を振り返って、今の私のままハッピーに踊ろう、くらいの感覚なんです。」(松井さん)
その「私自身」の主軸にあるのが、今回の公演のテーマである「朝ごはん」だ。「豪華じゃなくていいんですが、その時間が好きで、生活の中でそこを確保することは大事にしたいと思っています。BUKATSUDOは、利用者やスタッフも含めて、生活環境や暮らしにこだわりを持っている人が多くて、私自身も自分の働き方や生活について前より考えるようになったのは、すごく影響が大きいです。
朝、窓を開けて太陽を浴びて、時間を大事にできたら物事は良い方向に行く気がするし、作品には人柄が出ると思っています。そういう背景を大事にした上で、そこから出る問いかけを踊りにしていきたいです。」
【イベント概要】
黄金町バザール2018 −フライング・スーパーマーケット
グループ展「pass by: 動くものと動かないもの」
pass by: passing and remaining
会期:2018年9⽉21⽇(⾦)〜10⽉28⽇(⽇)
時間:11:00〜18:30 ※10月6日、7日、26日、27日は11:00〜20:00
休場日:⽉曜⽇(⽉曜祝⽇の場合は翌⽕曜⽇)
会場:黄金スタジオ
住所:横浜市中区黄金町2-7先
アクセス:日ノ出町駅、黄金町駅(京浜急行)徒歩5分
料金:会期中有効のフリーパス700円(高校生以下無料)
[参加アーティスト]栗原亜也子 / 土居大記 / 平山好哉 / 三輪恭子 / 安田拓郎 / 吉田ゆう / 吉本直紀
Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2018共催 踊りと空間の公演「朝ごはん」
日時:9月28日(金) 19:30【開場】20:00【開演】
9月29日(土) 14:30【開場】15:00【開演】/17:30【開場】18:00【開演】
9月30日(日) 14:30【開場】15:00【開演】/17:30【開場】18:00【開演】
会場:BUKATSUDO
住所:横浜市西区みなとみらい二丁目2-1ランドマークタワー ドックヤードガーデン内 地下1階
アクセス:みなとみらい駅(みなとみらい線)徒歩3分、桜木町駅(JR京浜東北・根岸線、横浜市営地下鉄ブルーライン)徒歩5分
料金:2,000円
踊り_asamicro:ダンサー・アーティスト/振付師
空間_千田泰広:美術作家/建築家‐angrygrapes architects COO.
音楽_種子田郷:音楽家、project suara主宰
(文・齊藤真菜)