2020-07-10 コラム
#プロジェクト #環境・資源 #デザイン #美術

馬車道駅上のBankART Temporaryにて松本秋則+高橋啓祐による展覧会が8/2まで開催!

松本秋則さんによる竹と音のインスタレーションと、高橋啓祐さんの映像作品のコラボレーションを体験できる「緑陰図書館2020」が、旧第一銀行(元YCCヨコハマ創造都市センター)の1階にて開催中だ。同会場は今年4月より「BankART Temporary」として生まれ変わり、BankART 1929の代表・池田修さんのディレクションによって、この1年間さまざまな企画を展開していく。その第一弾として6月1日よりオープンしたのが、「緑陰図書館2020」である。新型コロナウイルス感染拡大の影響下で幕を開けることになった本展。アーティストの松本秋則さんと高橋啓祐さん、さらには企画者の池田さんに、作品への思いを聞いた。

「僕らにとってアートは日常」

取材したのは、非常事態宣言が解除されて以来、東京都で初の50人以上となる感染者数を連日記録していた6月末だった。当初4月からオープンする予定で準備を進めていた本展だが、新型コロナウイルスの感染拡大にともなう横浜市の方針に従って開催を延期。状況を注視しながら、6月1日にオープンへとこぎつけた。
多くのイベント事業者があらゆる対策を講じながら、活動をすこしずつスタートしはじめたこの時期。BankART Temporaryでも、オープン時間や運営方法など、感染リスクにじゅうぶん留意しながらの開催となったが、「アーティストにとって、作品をつくることは“生活”です。コロナが来ようが、地震が来ようが、彼らはアートをつくっている。それを見せていきたいという思いで、展覧会をオープンしました」と池田さんは語る。その言葉が印象に残った。

「緑陰図書館2020」展示風景。旧第一銀行の建築に、松本さんのサウンドオブジェ、高橋さんの映像作品が呼応する。

ダンスカンパニー「ニブロール」の映像ディレクターとして舞台美術に携わっている映像作家の高橋さんは、コロナ禍で舞台での発表はほぼすべてなくなってしまったという。そんななかBankART Temporaryでの展示は、開催の可否をぎりぎりのタイミングまで探っていた状況があった。「何より作品を発表できることが嬉しかったですし、6月中旬にひらかれたオープニングでは、マスクをしながらも人が集まって作品を見ている状況が、新鮮に感じられました」。そういった空間と時間をつくっていきたいと、高橋さんも話す。

映像作家の高橋啓祐さん。ダンスカンパニー「ニブロール」で、設立時より映像ディレクターを務める。

 

一方、竹でつくられた楽器、サウンドオブジェによる大掛かりなインスタレーションをいくつも手がけてきた松本さんは、本展を「会場のなかでお客さんがゆったりできるように演出しようと考えました」と振り返る。このような状況下だからこそ、天井が高く広々とした会場の環境を活かしながら、作品を見せたい思いがあった。そのため音を奏でる竹の楽器は、音の種類にもこだわり、長く居たくなるような聞きやすい音をセレクションしたという。

音の出る作品(サウンドオブジェ)の制作を手掛ける、“不思議美術家”の松本秋則さん。

 

展示の反響について池田さんに伺うと、本を読んだりしながら何時間も滞在するお客さんがいると言う。「そういうお客さんを見るのが一番嬉しいですね」と池田さん。観客の展示に対する“居方”を見れば、その手ごたえがわかる。

横浜市内で現在5つの創造拠点を運営する「BankART 1929」の代表、池田修さん。

初のコラボレーションとなった二人の展示

BankART Temporary(旧第一銀行)は、2004年~2009年まで「BankART 1929 Yokohama」として運営されていた場所だ。横浜で長く活動するアーティストやクリエイターは、この場所がBankART Temporaryとして生まれ変わったことに、ノスタルジーを感じるかもしれない。

松本秋則さんと高橋啓祐さんは、BankART 1929 Yokohamaだった時代にも、池田さんのディレクションで個展を開催したことがある。国内外を問わず、BankART 1929が手掛けた複数の大きなプロジェクトにも関わってきた二人は、池田さんとの強い信頼関係がある。企画のはじまりは「BankART Temporaryのオープニングは、お二人に飾っていただきたい」という池田さんの思いから。個別には作品を発表してきた二人だが、これまで一緒に展示をしたことはなかった。「今回は二人のコラボレーションを見てみたかった」と池田さんは話す。

初のコラボレーションとなった、松本さんと高橋さんの展示。高橋さんの映像のなかに、松本さんのインスタレーションが映る。

 

「緑陰図書館2020」というタイトルに表れているとおり、会場には作品以外にも本棚やソファー、机や椅子が置かれており、ゆったりと滞在できるようになっている。「図書館のように誰でも入りやすい空間になるように」と名づけられた展覧会。涼んだり本を読んだりしながら、作品のなかで過ごすことができるぜいたくな展示だ。

夜とは違う表情を見せる昼間の展示。会場に点在するソファーや椅子で、ゆっくりと作品を観たり、本を読んだりしながら滞在できる。

浮遊感のあるビジュアルと、心地よい音域にこだわってつくられたサウンドオブジェ

松本秋則さんが2006年にこの会場で開催したのは「Bamboo Bank 緑陰銀行」という個展だった。当時も、竹でつくられた楽器とともに、竹のインスタレーションを会場中に張り巡らせたという。

今回の展示で作品はどのように変化したのだろう? 松本さんにお話を聞いた。

「楽器のビジュアルが変わりました。会場の空間をより活かそうと考え、楽器そのものではなく、すこし浮遊感の感じられるオブジェになるように、羽をつけるなどの手を加えています」。

インスタレーションに使用されている竹は、港北区の竹林所有者のご家族や、BankART 1929とつながりのある植栽会社社長らとともに伐採したもの。

松本さんがつくる竹の楽器は電動式で音が出る仕組みになっている。鍵盤のようにたたいて音が出るものや、鐘や鈴が鳴るものなど、大小さまざまな楽器が何種類も仕込まれている。会場にいると、つい音に惹きつけられて動きたくなる衝動に駆られてしまう。また、これらの音はすべて“生音”で、スピーカーを介していないことにも驚いた。元々は銀行として使われていた歴史的建造物の会場は、空間が広く、石やコンクリートでできている。そのため松本さんのサウンドオブジェが奏でる音がよく響く。

「以前は無調の音が鳴る楽器を主に使っていたことで、音域が不協和音のように響く印象があったかもしれません。今回は民族楽器をベースにつくったり、オリジナルの楽器でも音域を決めて、素材に対して心地いい音を奏でるように調整したりしました。

このぐらい広い空間だと音の響きが長くなるので、反響によって生まれる音のズレも気持ちよく感じられると思います」。

天井の高い会場を浮遊するかのようなサウンドオブジェ。動きも音もどこか生き物のような楽器たち。

楽器に使われている竹は、よく乾燥した100~200年ほど前のもの。農家の屋根裏などにあったものを手に入れて楽器にするそうだ。

「古い竹は音の響きがよく、変形もしない」と松本さんは話す。

サウンドオブジェの影と、建築を活かした映像インスタレーション

一方、高橋啓祐さんは2005年に本会場で映像インスタレーションの個展を開催した。ニブロールが発表した舞台作品『public=un+public』とともに制作した映像作品だった。

「緑陰図書館2020」でも、同作品をアップデートした映像インスタレーションを発表している。

「2005年の映像作品から、基本的には変えていません。2005年の個展は、僕にとってはほぼ初めて劇場以外で発表する機会でした。劇場における舞台美術の映像、平面的な背景としての見せ方にストレスを感じていたころです。単なる平面ではない映像、映像を空間として見せることをより意識しはじめていたので、この会場をいかに使うかという試みがマッチしたのかなと思っています」。

旧第一銀行の空間を活かした映像インスタレーション。「高橋さんは場所に合わせて作品を立ち上げるのが本当に上手い」と池田さんは話す。

 

今回の展示では、初めて松本さんのインスタレーションとコラボレーションをすることになった高橋さん。「緑陰図書館2020」では、15年前に発表した映像作品をどのように更新したのだろう?

「前回との違いは、会場に松本さんの竹の楽器やインスタレーションがあることです。一番大きな点としては、オブジェの影の出し方や、影と呼応するような映像の位置を、細かく調整しながら空間をつくりました」。

映像のなかの登場人物は、鳥になって消えていく。竹の森、浮遊するオブジェ、そして鳥……。新たな鑑賞体験が立ち上がる。

 

映像の場合、時代に応じて技術も変わる。映像作家としての高橋さんが、いつも気に留めているのは「映像はすぐに古くなる」こと。「15年前の作品を今見せても大丈夫?」と自問自答するなかで、本作は「空間を見たときにまだ大丈夫かなって思った作品」であると話す。

「自分にとって、初めての空間インスタレーションとして取り組んだ作品なので、思い入れもある。ぜひ多くの方に見ていただけたら」。

時を経て、新たなスタートを切ったこの場所と二人の作品。「コロナウイルスの状況下ですが、BankART Temporaryがアートと人を結びつける場として、また始まるよというメッセージになれば」と高橋さんは話す。

 

本展は11時30分から19時30分までの開場で、18時ごろから高橋さんの映像作品の展示がスタートする。お仕事帰りの夕刻以降に訪れていただくのをおすすめしたいが、自然光のなかで松本さんのサウンドオブジェを堪能できる時間も、合わせて体験してほしい。

「セルフですがドリンクのサービスもありますし、ゆったりと過ごせるような空間をアーティストがつくっています。古い建物と、二人のコラボレーションを楽しみに来てください」(池田修)

取材・文:及位友美(voids
写真:加藤甫


【イベント情報】

「緑陰図書館2020」松本秋則+高橋啓祐
日程:2020年6月1日(月)~8月2日(日)※日曜定休(最終日はオープン)
時間:11:30~19:30(18時ごろから映像)
会場:BankART Temporary / 1Fホール(入場無料)

【PROFILE】

松本秋則(まつもと・あきのり)
1982 年より音の出る作品(サウンドオブジェ)の制作を始める。主に竹を材料としたサウンドオブジェを創作し、様々な場所でサウンド・インスタレーションを展示。個展「Made in China」銀川美術館、中国 (2018)、第34回全国都市緑化はちおうじフェア 東京(2017)、ISSEY MIYAKE Botanical Delights 銀座店(2016)、個展「オトノフウケイ」彫刻の森美術館 (2015)、個展「sound sculptures」FlinnGallery, USA (2015)など。

高橋啓祐(たかはし・けいすけ)
映像作家。美術館、ギャラリー、劇場、パブリックスペースなど多様な空間で作品を発表。映像インスタレーションとともにパフォーマンスも展開し、身体と映像の関係性を追求している。 BankART1929や、イタリア、台湾のギャラリー等にて個展を開催。瀬戸内国際芸術祭(2016)や上海ビエンナーレ(2004)、ジャカルタビエンナーレ(2017)といった国際展への参加をはじめ、 BankART Lifeや黄金町バザールなどにも参加し、横浜を拠点に国内外での制作、発表をおこなっている。2005年「第9回文化庁メディア芸術祭」審査委員会推薦優秀作品受賞など。またダンスカンパニー「ニブロール」では設立時より映像ディレクターを務める。

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