2020-02-13 コラム
#パフォーミングアーツ #美術 #助成

協働して作品をつくる――アート・コレクティブを率いる高山玲子さんインタビュー

アーティストで俳優の高山玲子さんが率いるアート・コレクティブ「フューヒューピュー」。2月13日からTPAM(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)において、最新作『祈りの素描』を急な坂スタジオで発表する。

2018年、2019年にも同じくTPAMで高山さんが発表した『ゴーストライター』『ハイツ高山』は、独自の切り口で観客の鑑賞体験や表現のメディアを問い、話題を呼んだ。今回は高山さんにとって初となる、コレクティブ名義での作品づくりに取り組んでいる。『祈りの素描』の初日に向けクリエーションまっただなかの高山さんに、意気込みを聞いた。

 

『祈りの素描』で描かれる「祈り」とは?

 

俳優としての長年の経験をバックグラウンドに、現在はアーティストとして作品をつくっている高山さん。TPAMフリンジ参加は今作で3回目となる。アーツコミッション・ヨコハマ(ACY)の若手芸術家支援助成クリエイティブ・チルドレン・フェローシップを初めて取得し、「祈り」にまつわるリサーチにも取り組んだ。

2018年にblanClassで発表した『ゴーストライター』は、観客参加型のパフォーマンスだった。観客が自身の終焉に関するテキストを書いて自ら朗読し、その内容を高山さんが上演する実験的な企画だ。続く2019年発表の『ハイツ高山』では、同会場の建物が建設されてから今日までの「歴史」を、パフォーマンスや映像、装置などさまざまなメディアをとおして上演。『ゴーストライター』の建物版ともいえる内容だったため、連続性を感じる2作になったが、今作では「祈り」という新たなテーマを取り上げている。本作のコンセプトについて聞いた。

高山:「もともと祈っている人の姿が好きなんです。神社や仏閣、教会など、人はいろいろなところで祈りますよね。宗教・宗派や、祈りの中身、それぞれの人が抱える悩みや私利私欲は違っても、実態のないものに向かい祈る姿はみな同じように見えます。そういった祈りの行為だけを切り取ってみたいという思いが、クリエーションのきっかけになりました。

自分がなぜ『祈り』に興味をもったのか。それは育った環境によるところが大きかったと思います。母親が二つの宗教に入っていて、幼かった私がそれぞれの場所に連れて行かれたり、家では違う宗教の人同士がかち合わないようにしたりしていました。二つの宗教に入っていたのは、そうせざるを得なかった理由があったことも後に分かるのですが。祈ることで自分の心が救われていくとはどういうことなのか、子どもながらに疑問をもつような環境でした。

一方で私自身は、一つの宗教を強く信じるのではなく、自然界のそれぞれのものに固有の霊が宿る『アニミズム』や、世界が流転していくといったことの方に心がひかれます。今作では、私にとっての『祈り』とは何かを『祈りの素描』として提示しようと思っています。フライヤーでは新月と満月が反転するモチーフを、コレクティブのメンバーの一人、デザイナーの一野篤さんにデザインしてもらいました」

本作は会場内をいくつかのセクションに分け、観客が自由に周遊しながら体験するインスタレーション的な作品になるという。会場内でテキストを読んだり、映像や写真を見たりしながら、それぞれの体験のなかに作品を立ち上げる。『ゴーストライター』や『ハイツ高山』では高山さんが上演や、パフォーマンスをしたりと演劇的な側面もあったが、今作ではよりインスタレーションの要素が強くなりそうだ。

 

協働の可能性

 

アート・コレクティブ「フューヒューピュー」は、前作『ハイツ高山』で協働したメンバーによって構成されている。高山さんに加え、写真家の前澤秀登さん、エンジニアの新美太基さん、デザイナーの一野篤さんが名を連ねる。前澤さんはコレクティブのなかではドラマターグも担っている。

高山さんが声をかけて集まったメンバーという点ではバンドリーダー的な役割ではあるものの、本作では自身の「個」が前面に出すぎないことを意識しているという。異なる専門性をもつ3人で一つの作品をつくるとき、具体的にはどのようなプロセスを経ているのだろう?

高山:「最初にドキュメントをつくります。私が考えていることを、いろいろとテキストで書く。それに対して、ほかの3人がそれぞれのやりたいことやダメ出しをフィードバックします。そういったプロセスを経て、どのように作品に落とし込むか、何をやるかを話し合って決めていきますね。

コレクティブとして発表をしようと思ったのは、私の手つきでつくっていると、落としどころが何となく見えてしまうようになったからです。『ハイツ高山』あたりから、これでは外に向かって広がっていかないのではないかと感じるようになりました。自分だけの物語から、人に共感してもらえる普遍的な作品へ移行するために、自分以外の誰かと協働してつくることを意識的にやりたくて。フェローシップもそのために申請しました」

『ゴーストライター』2018年2月10-11日 blanClass(※)

 

『ハイツ高山』2019年2月9-10日・14-15日 blanClass(※)

 

演劇の現場の多くは、演出家、劇作家、スタッフ、俳優と、作品づくりのプロセスで役割が分かれている。俳優として長い時間を過ごした高山さんは、そういったつくり方に疑問をもつようにもなっていた。

「私以外の『フューヒューピュー』のメンバーは、誰一人演劇作品をつくったことがなかったのも大きかったですね。演劇の現場にあるノウハウや手順を、この3人は知りません。だからこそ、この人たちから出てくるものに耳を傾け、別のつくり方でできあがる作品を見てみたかった。

一方で、台詞や演技といった演劇的な要素をなくしてしまうと、私がいる意味がないかもしれないと、葛藤もしています。今回の作品では、映像や写真、装置といったインスタレーションで、台詞や演技がなくても成立する作品をつくっていますが、私自身から出てくる演劇的なものを残すかどうかという点では、まだ振り切れていないかもしれません」

 

リサーチの過程で見えてきた、フェティシズム的なアニミズム

 

「祈り」をテーマに作品をつくるため、当初のプランでは日本各地や、海外にある信仰の拠点をリサーチで訪れようと高山さんは考えていた。特に高山さんがリサーチの対象に設定したのは「アニミズム」だった。アニミズムとは自然界のあらゆる事物に霊魂が存在するという信仰で、宗教の起源とも言われている。

高山:「はじめに東大の神仏研究者に、リサーチをするのにおすすめの場所を聞きに行きました。そこで教えていただいた秩父の三峯神社には、実際に前澤さん、新美さんと3人で足を運びましたね。三峯神社は動物信仰で全国的に有名な場所です。ここでは『裏のお札』といって、神社の守り神・狼のお札を木箱に入れてお借りすることができます。私も今お借りしていて、家のなかにお祀りし一年以内に返却するのですが、もっていることで自分の身体に変化があるのか実験中です。

同じ研究者の方から聞いた話で興味深かったのが、アニミズムはある意味でフェティシズム※であるというお話でした。たとえば私が持っているこのペンケース、自分にとってはこれを持っていると安心したり、すごく大切なものに思えたりしても、他人にとってその気持ちは理解できないかもしれません。そういった何かに対する特別な思いがアニミズムであり、フェティシズムである。アニミズムは何か壮大なものではなく、誰もがもっている思い込みのようなものだと考えると、そこに親近感と興味がよりわいてきたんです。

自分だけにしか見えないもの、わからないものを信じて生活をしている人って、ある意味どこにでもいますよね。ここ横浜に住んでいる、どこかのおばあちゃんが、近所のお地蔵さんに、必ず決まった時間になると手を合わせているとかーー。漠然としたアニミズムをリサーチするのではなくて、人々がそれぞれにもっているアニミズム的なフェティシズム、個性とも言い換えられるようなものをリサーチしていく方が、興味深いうえに、それを見る人も自身の内にあるフェティシズムに目を向け、そのことを肯定できるんじゃないかと考えるようになりました」

 

 

当初あったアニミズムのリサーチプランは、個人のなかにある「信仰」=フェティシズム的なアニミズムのリサーチへと変化した。俳優として舞台に立ち続けてきた彼女にとってのアニミズムは、「演技をすること」であると話す。

高山:「演技をするときは、目に見えない何か、ここにはいない誰かを憑依させる状態になります。私にとってのアニミズム信仰は、お芝居をする行為なのかもしれません。フェティシズム的なアニミズムのリサーチの一環で、大阪の詩人・辺口芳典さんを訪ねましたが、自分の言葉の力を信じ、言葉を言霊のようにして詩作をする方で、刺激を受けました。

写真家の場合は、『うつりますように』と祈って写真を撮るかもしれないし、アーティストに限らず日常のなかのちょっとしたところで、誰もが目には見えない何かを信じているんじゃないかな」

※フェティシズム
呪物崇拝。人工物や簡単に加工した自然物に対する崇拝の総称。(『日本国語大辞典 第二版』小学館、2001年より一部抜粋)

 

 

俳優としてつくり、発言していきたい

 

これまで「悪魔のしるし」「dracom」「マームとジプシー」「ミクニヤナイハラプロジェクト」など、数多くのカンパニーの舞台や映像、パフォーマンス作品に、高山さんは数多く出演してきた。

高山:「演技をすることで、たくさんの人の人生を自分の身体の中に入れすぎたというか(笑)。誰かに動かされているという感じがあって。自分自身で『どうしてもこうなりたい、こうしたい』という気持ちで動いたことはないかもしれません。今ここにいる自分を、すごく遠くで見ている自分がいる。そんな感覚があります」

俳優からアーティストへの転身。異色の経歴にも感じるが、コレクティブでの協働の可能性に賭ける現在の活動は、「アーティストになろう」と思ってはじめたわけではない。それは演劇の現場で感じてきた制作プロセスの違和感や、別の可能性を探りたい欲望から自然に生まれたものだった。

高山:「特に俳優は、年齢や見た目だけで捉えられてしまうこともあります。また、日本の小劇場の作品は、個人的な題材を元にしたものが多く、社会と繋がっていないように思えます。こういった作品を海外のプロフェッショナルからは『そんな話を人前でしてどうするんだ』と見られることもある。このままだと日本の小劇場の俳優は一定期間のみ消費されていくだけで、後がない。続かないのではないだろうか。そういった問題意識から、今の活動がはじまっています。俳優だって自分自身でものをつくれるし、発言もできるし、協働もできる。それを示していけたらいいですね」

ACYのフェローシップを活用して渡航したタイのBIPAM(Bankok International Performing Arts Meeting)では、バンコクの舞台芸術シーンの活況にも影響を受けたという。

高山:「タイのアーティストたちは一人一役ではなくて、さまざまな役割を担うのが当たり前でした。演出もするし本も書く 、俳優やスタッフもやる。みんなでバンコクのパフォーミングアーツを盛り上げていこうという気持ちからフェスティバルが生まれていることが分かり、熱量を感じましたね。

海外の俳優とのコラボレーションにも興味が出てきて、1対1 の最小単位の協働を試してみたいです。ダンサーはそういった協働も多いですが、俳優だとあまり見かけませんよね。一人ずつなら渡航費や滞在費もコンパクトだし、やりたいと思ったときにできるかな」

 

 

高山さん自身の活動としては、日本の舞台芸術シーンのなかで、俳優もクリエーションを担う一員であることが自覚できる場をつくっていきたいという。俳優だけでなく、演出家やスタッフ、演劇に関わるあらゆる人と意識の共有を目指す。

高山:「これからやってみたいこととして、本番を前提としないリハーサルとか、ワークショップを開いてみたいです。作品を発表することが決まっていると誰かが何かを決める必要が出てきてシビアになってしまうから。私自身もそういう環境は勉強になると思っています」

最後に、2月13日に初日を迎えるフューヒューピューの『祈りの素描』に向けた意気込みを聞いた。

高山:「見に来た人たちがほんのすこしだけ、ポジティブになって帰ってくれたらいいなと思っています。これまでの作品でも、死を想像することで生きることにすこし希望がもてたり、見えないものを感じてみたりと、些細なことを提示してきたと思っているので――。あまり難しいことではなくて、ちょっと気持ちが楽になって帰ってもらえたら」

取材・文:及位友美(voids
写真:大野隆介(※をのぞく)

 


 

【プロフィール】
few phew pur(フュー ヒュー ピュー)
高山玲子(アーティスト・俳優)の前作『ハイツ高山』(2019)に参加した制作メンバー、前澤秀登(写真家・他)、新美太基(エンジニア)、一野篤(デザイナー)の4人により結成されたアート・コレクティブ。

高山玲子(たかやま・れいこ)
アーティスト /俳優/体メンテナンス体操講師。主に境界線(演者/観客・あなた/わたし・あの世/この世)これらの見えないラインを可視化・表象することで起こりうる認識のズレなど、人の数だけ答えが違うことをみんなで面白がれるような作品制作を行なう。

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