2025-02-28 コラム
#環境・資源 #産業・商品 #生活・地域 #まちづくり

令和の横浜使節団 富山編 フォトレポート

「令和の横浜使節団」は、まちづくり・デザイン・ものづくり・文化などをテーマに横浜の人々が他都市を訪れ、その地の人々や文化と交流し、学び得た知見を横浜にフィードバックする視察交流体験プログラムです。
みなとみらいの造船ドッグ跡地にある「大人の部活」が生まれるこれからの街のシェアスペースBUKATSUDOと、アーツコミッション・ヨコハマの共同企画として2023年度より始まりました。
名前の由来は、1871年に横浜港から出航した岩倉具視を全権大使とする「岩倉使節団」。諸外国の優れた文化や技術を学び持ち帰った志や、旅立ちを支えた横浜の文化・背景を継承する、学びの旅です。2023年夏には新潟へ、2024年3月には信州を訪問しました。
2024年9月5日・6日に実施された「令和の横浜使節団 富山編」では、富山県西部の城端・砺波・井波・高岡を訪れました。一般社団法人富山県西部観光社「水と匠」プロデューサーの林口砂里さんのご案内のもと、歴史・文化・民藝・伝統産業・リノベーションなどの観点から、それぞれの地域での取り組みを視察し、交流を行いました。また、訪問から少し間を開けた9月27日に横浜にて振り返る報告会を行いました。その模様をレポートします。(富山視察参加者:18名、報告会参加者:14名)

1日目/城端・砺波エリアの視察
新高岡駅から砺波平野の伝統家屋へ

参加者は新高岡駅に集合。早速に「農家レストラン大門」へ移動します。ここで、「水と匠」プロデューサーの林口砂里さんと合流。砺波平野の風土に合わせた建築様式である「アズマダチ」の建物で伝承料理のお膳を頂きながら、この土地では住まい方やコミュニティを含めて浄土真宗が暮らしに根付いてきたことを伺う所から旅がスタートしました。

参考:アズマダチについて(となみ散居村ミュージアム)

散居村展望広場南砺市

そのあとは山道を登り、「散居村」を展望広場から俯瞰します。急峻な山々の間に広がる豊かな水の恵み、冬の厳しい季節風を防ぐ屋敷林「カイニョ」など、人々が自然と一体となり暮らしてきたことが伺えます。「カイニョ」は燃料や家屋の木材にもなり代々大切に受け継がれてきましたが、時代の変化により維持も難しくなっています。水と匠ではカイニョの剪定枝を使い、散居村保全活動への寄付が含まれるアロマ製品の製造を地元企業と行うなど、地域のファンを増やす商品開発なども行っています。

参考:散居村・カイニョについて(となみ散居村ミュージアム)

城端別院善徳寺・杜人舎(南砺市)

 

 

続いて、城端別院善徳寺へ。善徳寺は民藝思想で知られる柳宗悦が晩年の集大成である「美の法門」を書きあげた地です。柳は大いなる自然の恵みに感謝し、人と自然が共に作り合うこの土地の精神風土を「土徳」と呼び、影響を受けていました。かつては同朋と呼ばれる門徒が集まりコミュニティを作っていた研修道場はリノベーションされ、宿泊・複合施設の「杜人舎」に。調度品にも民藝が感じられるようになっています。コワーキングスペースにて林口さんに観光を通じて地域づくりを行う「水と匠」の取り組みをご説明いただきました。地域の価値を新しい価値観として受け取った来訪者が、観光を通じて地域資源の保全と再生へと還元するリジェネラティブ・ツーリズムの考え方などをご紹介いただきました。

参考:柳宗悦を引き寄せた土徳(どとく)の地 今につづく信仰と「城端別院善徳寺」(水と匠)

光徳寺南砺市

 

風土や歴史、民藝思想にふれたあとは、光徳寺を訪問。先々代のご住職の民藝運動への深い共感により、戦中戦後に棟方志功が疎開先として身を寄せていました。棟方が描いた襖絵のほか、各地の民藝や工芸の品が展示されています。棟方志功もまた、富山の風土や仏教から影響を受けていたことを20世住職の高坂さんがお話してくださいました。

参考:すべては阿弥陀様からのいただきもの 棟方志功を支えた民藝の寺「光徳寺」(水と匠)

若鶴酒造 三郎丸蒸留所見学交流会砺波市

 

交流会の前に、若鶴酒造の三郎丸蒸留所を見学。高岡は400年以上の歴史を持つ銅器や漆器などの伝統産業が息づく街。世界初の鋳造製の蒸留器もあり、地元企業が協働する姿も見られます。
交流会では高岡で活躍される方々も交え、富山と横浜の双方のプレゼンテーションが行われました。ものづくり企業のリブランディングや、市内各所での展示販売・ワークショップが行われる「高岡クラフト市場街」、など、それぞれの地域でのまちづくりや取り組みを共有し、活発な意見交換が行われました。

2日目/井波・高岡エリアの視察
井波周辺・井波別院瑞泉寺の視察

 

 

2日目は「木彫刻のまち 井波」を視察。職人が多く住む伝統あるこのエリアは一棟貸の宿やブルワリーなども点在するようになりました。まち歩きをした後は、井波別院瑞泉寺にて「一般社団法人ジソウラボ」の取り組みを代表の島田さんと理事の前川さんに伺いました。町村合併などの危機意識から30-40代が集まったことをきっかけに、林業、彫刻家、建築家などの異業種かつ地元出身者や地域外の自立した人々がチームとなって、人材輩出や空き家活用の事業に取り組んでいます。技術があれば海外ともつながり、地域内の人口が減っても関係人口があれば生き残れる、井波のアイデンティティを大事にしていきたいと語ってくださいました。

自由行動:高岡市街地の視察ほか

 

2日目の後半は自由行動とし、他の地域へ足を延ばす人もいました。モデルコースとしては高岡市街地を視察。空き家となった長屋を小さな商店街にリノベーションした「サカサカ」や、蔵のある大型商家を複合商業施設にリノベーションした「山町ヴァレー」など、歴史を尊重しながらアップデートしている場所を訪れました。

訪問まとめ

参加者からは、「実際にまちを見て、活動している方のお話を聞き、創造的なまちづくりやコミュニティに関わっている方と感想を共有できたことに学びがあった」「伝統的な歴史と文化を下敷きに、中堅や若手の方々が新たな営みにチャレンジしているところが未来を感じられた。」という感想が寄せられ、伝統と革新が共存する富山のまちづくりの魅力を実感する機会となりました。後日行ったアンケートでは回答者すべてが満足と答える結果に。ご自身に影響を与えたかを尋ねる質問でも「自身の企画に活かしている」「大学の授業で事例として紹介している」といった回答があり、学びが共有、展開されていることが伺えました。

振り返り/富山での学びから横浜を考える

9月27日には「令和の横浜使節団・富山編振り返り会」をBUKATSUDOにて開催。使節団メンバーがオンラインも交えながら、視察の学びを共有しました。行程の振り返りや感想の共有、観光やまちづくりの視点からのショートトークを行い、富山での出会いや発見が、横浜にどう活かせるかについて意見交換が行われました。

横浜市観光協会の河東さんには、DMO(観光地域づくり法人)の役割や観光の視点からみた、横浜への展望を提供いただきました。明確なターゲット選定や地域一体の原動力、ライフスタイルを提案している所に学びがあったといいます。
神奈川大学建築学部の上野先生には井波の都市形成の移り変わりを解説いただき、横浜との差異や参照できる点を共有いただきました。横浜への可能性として、創造的人材の流動性・移動性を高めること、行政区分に左右されないまとまりを生かすこと、生活の質への眼差しを持つことなどが挙げられました。
参加者からは、「様々な立場で活動する人が、別の視点で捉えた感想を聞くことができ、参考になった」といった意見が寄せられました。

おわりに

3回目の「令和の横浜使節団」となる富山編は文化や歴史、自然や産業を体感し、自律的な活動に刺激を受け、横浜を見つめ直す機会となりました。使節団メンバーの学びや気づきが、今後の横浜のまちづくりにどのように活かされていくのか、引き続き注目してください。

文・写真:アーツコミッション・ヨコハマ

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