2025-08-05 コラム
#郊外 #生活・地域 #音楽 #まちづくり #デザイン #建築

令和の横浜使節団 結城編 フォトレポート

 

「令和の横浜使節団」は、まちづくり・デザイン・ものづくり・文化などをテーマに横浜の人々が他都市を訪れ、その地の人々や文化と交流し、学び得た知見を横浜にフィードバックする視察交流体験プログラムです。

横浜・みなとみらいの造船ドック跡地に位置する大人のためのシェアスペースBUKATSUDOと、アーツコミッション・ヨコハマの共同企画として2023年度より始まりました。

名前の由来は、1871年に横浜港から出航した岩倉具視を全権大使とする「岩倉使節団」。諸外国の優れた文化や技術を学び持ち帰った志や、旅立ちを支えた横浜の文化・背景を継承する、学びの旅です。2023年夏に新潟、2024年3月に信州(長野市、上田市)、2024年9月に富山を訪問しました。

そして2025年5月30日、4回目となる今回は、茨城県結城市で活動するまちづくり団体「結いプロジェクト」の取り組みを視察しました。「結いプロジェクト」の代表で建築家の飯野勝智さんと「結いプロジェクト」で様々なイベントをオーガナイズしてきた結城商工会議所の野口純一さんのご案内のもと、結城の歴史ある建物を見学し、そこで活動する人々と交流するプログラムです。その模様をレポートします。(結城視察参加者:18名)

 

結城市について

結城市は、茨城県の西部に位置し、栃木県小山市と県境を接する、人口約5万人の市です。古くから結城紬の産地として栄え、かつては一大産業を築きました。近年の「着物離れ」に伴い、現在では観光資源として新たな形で受け継がれています。2010年には、ユネスコの無形文化遺産にも登録されました。

そのほかに、日本酒や味噌、ゆでまんじゅうなど、昔ながらの特産品が多く残っているのも結城の特徴です。関東平野の肥沃な土壌と豊かな日照時間を活かし、農業も盛んで、特に露地野菜の生産が中心となっています。

また、結城駅の北側には、城下町としての歴史を感じさせる街並みが今も広がっています。一方で、駅の南側では、国道50号結城バイパスの開通によりロードサイド型の店舗が増え、生活圏が大きく変化しています。

 

結城に到着

 

小雨のちらつく結城駅に、「令和の横浜使節団」が降り立ちました。「結いプロジェクト」の拠点であり、今回の旅の拠点でもある「yuinowa」は、駅北口から徒歩8分のところにあります。横浜からの参加者はわずかな移動の間も、歴史を感じる町並みに興味津々です。

 

ランチ:結城縁旅弁当

 

「yuinowa」に着くと、「結いプロジェクト」の飯野さんと野口さんが出迎えてくれました。長い移動を終えた参加者、まずは腹ごしらえです。用意していただいたのは、「結城縁旅弁当」。結城産の野菜や茨城県のブランド豚ローズポークなど、地元の食材をふんだんに使用したお弁当です。

味覚で結城を味わったところで、いよいよ「結いプロジェクト」の取り組みを学んでいきます。

参考:結城縁旅弁当

 

レクチャー(講師:飯野勝智、野口純一)

 

「結いプロジェクト」の代表で建築家の飯野勝智さんと「結いプロジェクト」で様々なイベントをオーガナイズしてきた結城商工会議所の野口純一さんに、「結いプロジェクト」のまちづくりについてレクチャーしていただきました。

「結いプロジェクト」の活動の背景には、多くの地方都市が抱える問題がありました。国道50号沿いの郊外型店舗の増加に伴い、駅の北側に位置する商店街は衰退し、空き店舗が増えていきました。

そうした中、主体的にチャレンジできる街の土壌を作ろうと立ち上がったのが「結いプロジェクト」です。「結いプロジェクト」のまちづくりは、マルシェ「結い市」と音楽フェス「結いのおと」というソフト事業からスタートしました。両イベントに共通するのは、結城の魅力を市外に発信すること、そして、地域の文化資源をフル活用するということです。たとえば、「結いのおと」では、街の古民家や寺院などが会場になります。

そうした取り組みが市外にも認知されるようになったところで、「結いプロジェクト」はハード事業にも積極的に取り組むようになります。現在では空き店舗活用の支援、コミュニティスペースやホテルの運営なども手掛けています。

単に地域の資源を利用するというだけでなく、地域の人々を仲間につけて共に活動していることも「結いプロジェクト」の特徴です。農村集落では古くから互助的に共同作業を行う「結い」という慣行が存在しました。「結いプロジェクト」はそのような精神を反映しているのです。今回の旅でも、飯野さんや野口さんと、各施設の方々との間の深い信頼関係が伝わってきました。

参加者は、横浜で自ら手掛ける事業と重ね合わせながら、レクチャーに聞き入りました。結城市と横浜市は、人口規模や文化など様々な点で異なりますが、地域の文化資源や人々とともにプロジェクトを作り上げていくことや、ソフト事業により地域の魅力を外部に発信した後にハード事業に参画していくというプロセスなど、多くの学びがありました。

参考:結いプロジェクト

 

HOTEL(TEN)

 

「HOTEL(TEN)」は、築90年以上の町屋をリノベーションした一棟貸しの宿。「結いプロジェクト」が多くの人々を惹きつけるイベントを展開するなか、泊まる場所が少ないという問題がありました。そこで誕生したのがこの「HOTEL(TEN)」です。家電や調理器具も充実しており、古民家を存分に楽しむことができます。

ちなみに、結城に生まれ育った女将の松田美幸さんは、小学生の頃に偶然自転車で「結いプロジェクト」のイベントに通りかかったことが、「結いプロジェクト」との出会いだったそうです。

参考:HOTEL(TEN)

 

称名寺

 

鎌倉時代以来、結城の地を治めた結城氏の始祖・結城朝光の菩提寺。由緒ある寺院ですが、音楽フェス「結いのおと」の会場の一つにもなっています。

 

孝顕寺

 

坐禅、写経、ヨガなど様々な取り組みをする孝顕寺も、「結いのおと」の会場の一つです。2025年の「鎮座dopeness」のライブでは、観客が堂内に入りきらないほどの盛り上がりで、床が抜けるかと思った、と松浦恵真住職はこぼします。その松浦住職、横浜の總持寺で約20年過ごしたということで、私たちを温かく歓迎してくれました。

参考:孝顕寺

 

武勇

 

「武勇」は1867年創業の酒蔵。蔵特有の環境を整えることによって「蔵ぐせ」と呼ばれる個性が生まれますが、管理が難しく大量生産はできません。それでも武勇はこの個性にこだわり、大手メーカーとの差別化を図っています。

参考:武勇

 

秋葉糀味噌醸造

 

「秋葉糀味噌醸造」は、1832(天保3)年創業。明治時代以来の建物と、200年近い年月が経っていると考えられる大きな樽に圧倒されます。味噌造り教室も開催されています。

参考:秋葉麹味噌醸造

 

奥順

 

結城を代表する伝統産業「結城紬」。その歴史を今に伝えるのが、明治40年創業の「奥順」です。結城紬を一般の方に紹介するミュージアム「つむぎの館」を併設しています。本場結城紬は、糸づくりから織り上げまでに2~3年かかり、絣模様が入る場合はさらに時間を要し、4~5年かかることもあるという手間暇のかかる高級品です。その作業の一端を実際に見せていただきました。

参考:奥順

 

ぱんや ムムス

 

「ぱんや ムムス」は、おしゃれな街のパン屋さん。明治45年に建造された国登録有形文化財「旧黒川米穀店」をリノベーションした建物で営業しています。

参考:ぱんや ムムス

 

懇親会:NORA NERO COTTO

 

街歩きのあとは、結城と横浜の人々がより深い交流をすべく懇親会が開催されました。会場は「NORA NERO COTTO」。駅北口商店街から少し住宅街に入った閑静な場所に佇むイタリアンレストランです。バリエーションの富んだ美味しい食事をいただきながら、会話が弾みます。使節団メンバーはもちろん、結城からは孝顕寺の松浦住職やHOTEL(TEN)の松田さんなど街歩きで出会った方々も参加していただきました。一日を通して感じたことや浮かんだ疑問を結城の方々にぶつけたり、また逆に横浜での活動を結城の方々に紹介したりする姿が見られました。

参考:NORA NERO COTTO

 

振り返り: 参加者アンケートから

参加者からは、「本人のご案内により、実にリアルな視察と交流になった」「とても親切丁寧で、内容が充実していた」など「結いプロジェクト」のコーディネートの充実ぶりに満足する声が聞かれました。また、「直接各々の施設の方に話を聞けた」といった意見も多く、単なる「街歩き」ではなく、実際にそこに暮らし、そこで活動する方々と交流を持つことができる貴重な機会となりました。

とくに参加者にとって刺激的だったのは、次の二点でした。一つは、地域に根差したまちづくりに取り組んでいるということで、「徒歩圏内にすでにいる魅力的な人々を、プレイヤーとして巻き込んでいくことが素晴らしいと思った」といった感想がみられました。二つ目は、マルシェや音楽フェスといったプロジェクトを始め、そのあとで拠点を作っていくという、「ソフト→ハード」という「結いプロジェクト」のプロセスについて驚きの声が上がりました。

「自身が取り組む地方都市の商店街での事業や活動の参考、および励みになった」という意見もあり、学びから横浜での活動への展開も期待されます。

 

おわりに:結城と横浜の新たなつながり

今回で4回目となった「令和の横浜使節団」。新潟、信州、富山、過去3回の使節団のなかで生まれた交流から、すでに各地域と横浜の人々との間での協働プロジェクトが進みつつあるようです。文化人類学者のジェームズ・クリフォードは、根源(roots)と経路(routes)という発音の同じ二つの言葉を挙げながら、人間の文化は「根源」から生まれると思われてきたが、実は旅や移動といった「経路」からこそ生まれるものだ、と主張しました(『ルーツ:20世紀後期の旅と翻訳』)。それは、「結いプロジェクト」が「結い」という言葉に込めた「繋がり」というニュアンスに通じているように思えます。今回の「使節団」では結城と横浜の人々の間で新たなコミュニティを築くことができました。結城と横浜、少し離れた二つの地域の「経路」の間で、どのような新しい文化が生まれるのでしょうか。注目していただきたいと思います。

文・写真:アーツコミッション・ヨコハマ

 

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